リーダーは、従業員に期待する変革をみずから体現せよ
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サマリー:「従業員は変化に抵抗する」という通説は、変革に失敗したリーダーの言い訳にすぎない。企業改革の成否を分ける最大のボトルネックは、従業員ではなく、みずから行動で模範を示そうとしない組織のトップにある。言葉だけのスローガンを捨て、既存の古い管理システムに立ち向かい、みずから不確実な賭けに身を投じる覚悟がリーダーにあるか。本稿では、DBS銀行などの成功例をもとに、リーダー自身が変革を体現するための3つの自己テストを提示する。

変革のボトルネック

 筆者が助言してきた多くの変革プロジェクトで、同じような光景が繰り返されてきた。CEOが断固たる口調で全社ミーティングの開会を宣言する。「我々は、よりアジャイルに、よりデジタルに、そしてより顧客重視の企業になる」。全社ミーティングが終わり、使用された資料が社内ネットワークに載せられると、1週間もしないうちにシニアチームは以前と同じパターンに戻る。同じような月次レビュー、同じようなダッシュボード、そして既存事業の予定だらけのスケジュール。変革が存在したのはプレゼン資料の中だけで、リーダーたち個人のスケジュールには残らない。

「従業員は変化に抵抗する」とよくいわれるが、それは変革努力が失敗に終わった時、リーダーたちがみずからを慰めるために言うことだ。実際の証拠は、原因は別のところにあることを物語っている。マッキンゼー・アンド・カンパニーが1000件以上の企業改革を調査したところ、シニアリーダーが従業員に求める行動について、目に見える形で模範を示すと、改革が成功する可能性は5.3倍上昇する。それなのに、実際に模範を示すリーダーはわずか43%だ。コンサルティング会社プロサイ(Prosci)が12件の研究(計25年以上に及ぶ)に基づき行ったベンチマーク調査でも、同様の結果が得られた。すなわち、企業改革の成功に寄与する最大の要因は、エグゼクティブの積極的かつ目に見える支援であることが、1998年以降のすべての研究で明らかになったのだ。極めて有力な支援者がいるプロジェクトが目標を達成する可能性は79%だが、そのような支援がないプロジェクトの目標達成可能性は27%だった。改革の最大の障害として挙げられたのは、従業員の抵抗ではなく、こうした支援の欠如だった。総じて、ボトルネックは末端ではなく、トップにあるのだ。

 このことは筆者の近著Powered by Projects: Leading Your Organization in the Transformation Age(未訳)の中心的な主張となっている。我々はプロジェクト経済の時代に入り、価値を生み出す仕事はプロジェクト(反復的な事業運営ではなく、事業そのものを変革すること)にあるケースが増えてきた。そして、プロジェクトを中心とした組織構造が、これまで支配的だったオペレーション中心の組織構造に取って代わりつつある。だが、こうした構造改革は、シニアチームにこれまでとは異なるオペレーションを実践する意欲がなければ実現しない。彼らが部下たちのために、変革の模範を示さなければならないのだ。

「変革の模範になる」とはどういうことか

 ほとんどの改革は、業界を問わず、一連の共通する要請を伴う。それは「より多くのリスクを取れ」「実験をせよ」「迅速に学び、エビデンスが変わったら方針を変えよ」だ。経営陣は通常、そのすべてを唱える。

 ところが、リーダーたちは往々にして、別の時代向けに構築されたオペレーション手法(四半期ごとの事業レビュー、設備投資承認委員会、年間ベースの計画立案、業績管理システム)による経営に戻ってしまう。そして、こうした手法はどれも、企業改革に必要とされる行動を罰するようにできている。

 その矛盾は明白であり、従業員はすぐにそれに気づく。従業員は誠意を持ってあることを行うよう求められているのに、それに報いるようなシステムにはなっていない。このギャップの中で、やがて改革は静かに息絶える。誰かが妨害したからではなく、会社の基本システムが、それが構築された通りに機能し続けるからだ。

 これとは対照的に、最も成功しているプロジェクト中心型組織には、一つの共通点がある。CEOが、最も成功が不確かなイニシアティブ(最も安全なイニシアティブではない)を目に見える形で支持することだ。すると、エグゼクティブチームの他のメンバーも、CEOに倣って同じような行動を取るようになる。

 シンガポールの実業家ピユシュ・グプタが2009年に大手銀行DBSのトップに就任した時、DBSは「クソ、ひどい、のろい」(Damn, Bloody, Slow)の略だと顧客に揶揄されていた。それから15年間、グプタの下でDBSは、金融業界で最も研究されることになる変革を遂げた。クレイトン・クリステンセンが立ち上げた経営コンサルティング会社イノサイトは、2010年代の最も変革的な組織トップ10社の一つにDBSを選んだ。その戦略の骨子は、銀行のデジタル化、実験の義務化、2万7000人の組織内にスタートアップ文化を築くこと、など、よくあるものだった。違うのは、グプタがみずから模範を示したことだ。

 グプタはひそかに顧客として支店を訪れ、ほかの顧客と一緒に列に並び、なぜDBSの評判がそれほど悪いのか理解しようとした。また、社内での実験は、若手の自主性に任せるのではなく、シニアリーダーのKPI(重要業績評価指標)に結びつけた。その結果、1年で1000件もの実験が行われるようになった。しかも、そのほとんどに経営陣が関与した。さらにグプタは、四半期ごとに2週間、「テル・ピユシュ」(ピユシュに伝えよう)というキャンペーンを実施した。誰でも匿名でグプタに直接改革の提案ができるというものだ。グプタはその提案を数カ月かけて検討し、そのうち3分の1が社内ポリシーの変更につながった。また、DBSがAI分野に進出した時、グプタはDBSの「AWSディープレーサーリーグ」(AWS DeepRacer League)に加わった。これはレーシングカーと3Dシミュレーターを使って強化学習のスキルを競い合う世界的な大会で、本人の弁によると、グプタは「DBSでトップ100に入った」という。それは、ささやかだが、社内に向けた間違えようのない合図になった。グプタは2万7000人の従業員に向けて、自分は最優秀レーサーではないが、機械学習について学ぶことにかけては競う意欲があることを示した。

 グプタだけではない。それほど有名ではない組織でも、筆者は同じパターンを見てきた(筆者が助言した変革事例を含む)。ある欧州のエネルギー企業のCEOは、グループにとって最も不確実性の高い多角化プロジェクトの指揮をみずから執り、安全なプロジェクトは意図的に自分抜きで進めさせた。また、あるグローバル製薬企業のCFOは、最も有能な経理担当管理者を新しいAIイニシアティブに異動させ、この人事を通じて会社の優先順位を社内に示した。あるリテールバンクのCEOは、持続可能性が不透明なデジタルベンチャーの作業会議に参加し、当初の業績が芳しくなくてもそこに留まり続けた。

リーダーが模範を示さないとどうなるか

 リーダーがわざと変革の模範にならないことは、滅多にない。それは多くの場合、一見したところ擁護できる小さな決定の積み重ねから生じる。たとえば、リーダーがアジャイルな実行を推進する一方で、わずか6週間の実験を承認する前に、完璧なビジネスケースの提出を要求すること。あるいは、CEOがリスクテイキングを推進しつつ、最も不確実なイニシアティブを、最も安全策を採りがちなリーダーに任せること。部門トップが改革の断行を明言しつつ、部門内の精鋭を誰一人として改革担当にしないこと。日常業務でこうした精鋭たちが必要だからというのが理由だが、改革はまさにそうした日常業務を破壊することを意図していた。