しかし、原発を停止し続けるかぎり、燃料費等の増加は避けられない。燃料費が、コスト全体の43%、購入電力量が16%を占めており、これら2つで合計約6割になる。現在、燃料の価格が値上がりした分は、燃料費調整制度によって、自動的に値上げされる仕組みになっているが、原子力発電所を停止して火力発電所(汽力発電所)を使うことにすると、燃料自体をたくさん使うことになる。

 燃料費調整制度の下では、燃料の値段が上がる分は自動的に電気料金に反映されるが、燃料の使用量が増える分は電気料金に反映されない。そして、コストの安い原発を停め続けるなら、コストの高い火力発電に頼らざるをえず、燃料をたくさん使わざるをえない。これが、東電が電気料金の値上げ申請をした理由である。

 現在、柏崎刈羽原発と福島第2原発をただちに再稼働できる情況にないので、電力を供給するコストはかなり大きくなっている。これを電気料金で賄わなければ、税金を投入するほかない。消費者として電気料金で支払うか、納税者として税金で払うかという問題である。消費者としては、東電管内なのか、他電力管内なのかによって負担が変わりうる。現在、政府の歳入の約半分は公債金収入なので、税金を投入する場合は、今、我々が原発を停止し続けるコストの半分を、まだ生まれていない世代も含めた将来世代に押しつけることになる。

東電社員の人件費問題

 経費削減項目として、とくに、マスコミの注目を集めているのは、東電社員の人件費である。

 たしかに、原発事故を起こし、実質的に破綻した会社の従業員だから、給与・報酬カットだという議論は、一般人の溜飲を下げる効果がある。従来、東電社員が、仕事のわりに高い報酬を得ていたのも事実だろう。よって、ある程度の人件費削減は必要である。

 しかし、東電社員にも生活がある。給与を急に何割もカットされれば、住宅ローンの支払いや子どもの進学原資に影響が出かねない。今後、さらに人件費を大幅削減しても、首都圏に電力が安定的に供給されるかどうかについては、慎重に考える必要があろう。実際、優秀な若手を中心に、東電からの人材流出が止まらないと聞く。