総括原価の範囲を原則的に経常費用にかぎっていることから考えると、特別損失に該当するような項目は、総括原価に入らないと考えていいと思う。それでは、経常費用はすべて総括原価に入れていいのかどうか。この点については、事実と論理の整合性を問うだけでは、どちらが妥当か決まらない。政治判断に委ねるべき問題だろう。
問題大きい事業報酬の妥当性
電気料金を決定する基礎となる総括原価には、事業報酬という利益が算入されている。東電は、事実上、国有化されるのだし、当面、配当を支払う必要もないのだから、少なくとも株主の利益分はゼロでいいという議論もある。配当を払うかどうかによって、株主への利益をどうするかを論じるのは適切ではないが、国有化されているのだから自己資本分の事業報酬がゼロでいいというのは、確かに1つの見解ではある。
しかし、国有企業だから自己資本分の事業報酬をゼロにするということは、国有化された電力会社の管内に住む消費者は、国が資金を注入していることによって、電気料金が安くてすむということである。投入された資金の源泉は税金なので、東電管内の消費者が得をした分を、現在および将来の納税者が負担するということになろう。これは、他電力会社管内の消費者との公平性を考えると問題がある。
やはり、妥当な水準の事業報酬は計上されてしかるべきであろう。問題は、何が妥当な水準なのかである。現在の事業報酬の算定方式においては、レートベースと呼ばれる電気事業用資産の額に、一定の事業報酬率を掛けて、事業報酬を計算することになっている。
基本的に、事業報酬率は、負債利子率(他人資本コスト)と株主資本コストをそれぞれの時価を使って加重平均して計算される加重平均資本コスト(WACC)である。本当は、加重平均するときには、負債時価総額と株式時価総額で重みをつけるのだが、電気料金値上げ審査においては、負債を70%、資本を30%とすることになっている。
(事業報酬率)=(負債利子率)×0.7+(株主資本コスト)×0.3
である。このウェイトは、実際の東京電力の負債時価総額と株式時価総額と比べると、株主資本コストのウェイトがかなり高い。株主資本コストのほうが負債利子率よりも高いので、事業報酬は、本来の適正水準よりも高めに算定されるだろう。ただ、これは、審査のルール自体がそうなっているのであって、東電の申請に合わせて、特例を設けたものではない。