美しいバラには棘がある。

 笑顔の絶えないクリっとした大きな眼の彼女は、しかし、恐ろしいことに、高速で回転する頭脳と早口の英語で相手を追い込んでいく『圧迫面接の使い手』だったのである。

 彼女はニコニコと聞いてくる。「あなたが、過去にリーダーシップを発揮した例を教えて下さい」

 ところで、大体MBAの面接の問答なんて大概決まっている。

 こちらも想定問答を繰り返し、相当量のシミュレーションをしてきている。したがって、大概はよどみなく回答することができるのだ。

 先ほどの「あなたが、リーダーシップを発揮した例を教えて下さい」という質問にも、「はい、では、先日○○社という会社との、、、」と、すかさず回答することができる。

 だが、しかし、彼女は僕が答えはじめた瞬間に「ちょっと待って」と僕を遮るのであった。

「あなた、その○○社との話、エッセイ(選考過程において出す自分の仕事やこれまでの出来事の質問に対する小論文)で書いていたでしょ」

「あ、はい、書きました」

「そうでしょ。それ、もう読んだから他のものにしてちょうだい」

― そうか。そうきたか。まぁ、いい。他にも沢山話は蓄えてある。

「はい、わかりました。では、△△社と米国で、、、、」

「ちょっと待って」

「はい?」

「その話は、たしかあなたの推薦者の誰かが推薦状で書いていたわ。他の話にして」

「え。。。・・・・では、、、、、XX社と中国で、、、」

「だめ、それも他の推薦者が書いていたわ。他の話にして」

「え?」

「他の話にして」

「は、、、はい」

 それから僕はいくつかの話を始めたものの、ことごとく他の話にしろと要求された。

 そして、そのうち、遂に「ネタ」も尽きた。