第1の利益の源泉である「景気」は、程度の差こそあれ全業種に関係してくる要因です。これに対して業界の競争構造というレイヤーは、業界ごとの違いを問題にしています。

 そもそも儲かりやすい構造にある業界もあれば、はじめから儲かりにい構造になってしまっている業界もあるという話です。先ほどの野球とカーリングの対比は、このレイヤーに注目しています。

 野球やサッカーのような経済的な収益を得やすいような「種目」は、製薬業界や石油業界です。反対に、パソコン業界や航空業界は、そもそも儲かりにくい構造になってしまっている業界の典型例です。住んでいる場所に例えれば、前者はハワイみたいなものです。ハワイに住んでいるとなると、住環境を気にしなくてもわりと快適に生活できます。そもそも暮らしやすい土地だからです。これが北極に住むということになると、よっぽど工夫しないと、快適どころか凍死してしまいます。

 繰り返し強調しておきますが、この第2のレイヤーで利益水準を云々するときの主語は「業界」です。個別の企業ではありません。どんな業界にも儲かっている企業と倒産寸前の業績に苦しんでいる企業がいるものです。

 たとえば、やや広すぎる定義ですが、IT業界。グーグルはこの業界で高収益企業の代表選手です。しかし、同じIT業界であっても、赤字に苦しみ倒産する企業は毎日のように出てきます。業界というレイヤーでいえば、IT業界はハワイでも北極でもなく、「普通に厳しい」というわりと平均的な業界でしょう。

 製薬業界で競争している企業は、ほとんどの場合、景気の良しあしにかかわらず、航空業界にいる企業よりも高い利益水準を長期的に維持しています。業界の競争構造はその業界が持っている「位置エネルギー」のようなものです。その業界に存在するということ自体が利益の源泉となります。

 競争戦略論という分野を開拓した一人であるマイケル・ポーターさん、この人の「ファイブ・フォース分析」というフレームワークをご存知の方も多いでしょう。ファイブ・フォースは業界の競争構造を分析するためのフレームワークです。ポーターさんがまず着目したのは、3つの利益の源泉のうち第2のレイヤーでした。