利益の源泉の3つのレイヤーのうち、われわれが普通「経営力」とか「競争力」とか呼んでいるものは、一義的には3番目の戦略に関わっているはずです。たとえば「日本の競争力」という言葉にそれほどの実体はありません。集計レベルではある種の「傾向論」はできるにしても、競争しているのはあくまでも個別の企業です。他社との違いを明確にして、自社独自の戦略を打ち出して競争に打ち勝つ。それが経営者の仕事です。

「戦略」という言葉は便利でよく使われる言葉なのですが、それが実際のところ何を意味するのか、優れた戦略とはどういうものなのか、戦略が何ゆえ好業績をもたらすのか、こうした問題を日常から突っ込んで考えている人は、例外的少数にとどまるのが実際のところです。「木を見て森を見ず」といいますが、企業の競争力や収益性に関しては話が逆で、「森を見て木を見ず」が横行しているというのが僕の見解です。

 このような問題意識の下に、もっと企業や事業の戦略に注目するべきだというメッセージを発信するため、僕が所属している一橋大学大学院国際企業戦略研究科では、2001年から「ポーター賞」という賞を主催しています。

 ポーター賞は「独自性のある戦略によって優れた業績を上げた日本の企業(もしくは事業)」を表彰する賞です。2011年のポーター賞に選ばれたのは、コマツ(建設機械・車両事業)、三菱レイヨン(MMA事業体)、Plan・Do・See(ブライダル部門)、スター・マイカ(中古マンション事業)の4社でした。

 これらは単に業績に優れているだけの企業ではありません。戦略が優れているがために、好業績を出している企業です。ポーター賞は単純な業績の良しあしよりも、むしろ優れた業績がもたらされた理由にこだわっています。これがほかの賞と違うユニークな点です。

 なぜ企業の収益性をみるときに「森を見て木を見ず」になってしまうのでしょうか。