第3の利益の源泉、それが「戦略」です。
ここではじめて主語が個別企業になります。パソコン業界はその競争構造からしてきわめて位置エネルギーが低い。そこにいるだけでは儲かりません。その中にあって、デルは長期にわたって業界の平均水準を超える利益をたたき出している。サウスウェスト航空も、「北極」の航空業界にあって、長期利益を維持している会社です。
デルやサウスウェスト航空の利益は、どこから生じているのでしょうか。答えは、「戦略」です。こうした企業の利益の源泉は個別企業の戦略という第3のレイヤーにまで降りてこないとわかりません。
森を見て木を見ず
なぜある企業が儲かっているのか。その理由を説明するとき、多くの人は(おそらく無意識のうちに)「景気」や「業界構造」といった上のほうにあるレイヤーに注目します。
景気はいちばん上のレイヤーにある表層部分なので、「目立つ」し「わかりやすい」要因です。日経新聞の最初の数ページは、毎日この種のニュースであふれています。しかも、平均株価や為替、景気指数などで「見える化」されていますから、一発で動向がわかる。多くの人が企業業績との因果関係を意識します。
それに比べて、深層にある「戦略」となると、正しい理解をしている人は格段に少なくなります。これは考えてみると不思議な話です。儲かっているとか儲かっていないとかいうとき、議論の対象となっているのはあくまでも個別企業です。当たり前の話ですが、個別企業(もしくは事業)こそが利益計算の単位なのです。
しかも、景気は外部環境以外の何物でもありません。ひとつの企業の努力ではどうにもならない。業界は経営の意思決定によって選ぶことができますが、事業のアウトサイダーであるエコノミストや投資家と違って、経営者は文字通り事業経営の当事者ですから、投資家と違って競争する業界を次から次へとスイッチするわけにはいかない。ひとつの業界に長期的にコミットするのが普通です。多くの経営者にとって「業界の競争構造」は所与の条件となります。「生まれた国は選べない」のです。