答えは簡単、戦略(木)が外部からは理解しにくいものだからです。表層にある2つのレイヤー(森)と比べて、深層にある個別企業の戦略はより複雑であり、ワンフレーズやお決まりの尺度では把握できません。ある企業の戦略をきちんとつかむためには、ぱらぱらと新聞や雑誌、ネットの記事を見ているだけではまるで不十分、相当の手間暇をかけなければなりません。
たとえば「じゃらん」と「楽天トラベル」という二つの旅行サイトがあります。どちらもネット上でホテルや航空券の予約サービスを提供しており、同じような戦略に見えます。でも実際に戦略を詳しく紐解いていくと、この2つの事業には相当に違った戦略があります。「じゃらん」と「楽天トラベル」の戦略の違いをつかんでいる人はあまりいないのではないでしょうか。このように戦略、とくに優れた戦略ほど「似て非なるもの」という側面があります。
葉を見て木を見ず
話が戦略ということになると、今度は「葉を見て木を見ず」という落とし穴にはまる人が多い。木(戦略全体)をとらえようとせず、葉(ぱっと目につく個別の施策)をいくつか見るだけで戦略を理解したつもりになってしまうという成り行きです。
これにしても「わかりやすいものしかわかろうとしない」「手っ取り早く見えるものしか見ようとしない」という横着の所産です。忙しすぎるのか、面倒くさいのか、自分の頭でじっくり考えずに、新聞や雑誌の目立つところに取り上げられるような、最近の大きな意思決定(たとえば「海外企業を買収」とか「新技術の開発に成功」とか)や耳目を集める「ベストプラクティス」といった、いくつかの「葉」だけを見て理解した気になってしまう人が実に多い。これでは「葉を見て木を見ず」、優れた企業に独自の戦略を理解することになりません。
ポーター賞を獲得したコマツでいえば、「いち早く中国市場に進出」「コムトラックスというリアルタイム車両管理システムの導入」が葉に当たります。こうしたことは確かに大切な構成要素ではありますが、要素に過ぎません。そもそも戦略が一言で表現できるようなものであれば、他社にすぐに模倣されて独自性を失い、戦略が戦略でなくなってしまいます。