私は日々、いろんな実験を試みて、それを日常の行動に反映することに努めている。その一環として、自分が行う講演やプレゼンの際に、少なくとも何か1つ新しいことを試している。

 最近、「自分の講演を選ぼう」と称してこんなことをやってみた。まず自分が今年実施した20くらいの講演やプレゼンを振り返ってみて、多くの人から共通して尋ねられたことを分類し、31個の質問にまとめてみた。次に、新たな講演の前にこの質問リストを参加者に回覧した。そこからもっとも多くの人の関心を集めた8つの質問について私が詳しく話す、という試みを行った。

 この31の質問リストを公開することで、皆さんのお役に立てればと思う。また、各質問には一言ずつ、私の見解を加えてみた。これは現在執筆中の書籍The Little Black Book of Innovation(イノベーションのアドレス帳)の内容を踏まえたもので、私が最近考えていることでもある。

1.イノベーションをどのように定義するのか。

 インパクトのある、これまでとは何か違ったこと。

2.イノベーションにはどのようなタイプがあるのか。

 イノベーションとは目を見張るような新技術のことだけではない。さまざまな戦略的意図(例:新しい商品カテゴリーをつくる、既存事業を発展させる)、あるいはイノベーションの仕組み(例:新製品、新しい流通チャネル、新しいマーケティング手法)を考えてみよう。

3.イノベーションのチャンスをどのように見極めるのか。

 原点に立ち戻ること。それはターゲットとする顧客である。

4.どの顧客をターゲットとするべきか。

 自社にとって最高の顧客だけでなく、直面する問題を自分で解決できないような制約を受けている顧客へ目を向けよ。

5.何を探すべきか。

 ドラッカーいわく「企業が売っているものと、顧客が買っているものは違う」。顧客が解決を求める問題、つまり現在のソリューションではうまく解決できない重大な問題を探そう。

6.顧客や市場を観察するには、どうすればよいのか。

 エスノグラフィー調査で、じっくりと観察することから始めよう。フォーカスグループを使うのはやめること。

7.どうすればアイデアを思いつくのか。

 ピカソの名言に「優れた芸術家は模倣するが、偉大な芸術家は盗む」というのがある。違う業界、違う地方、別の国の企業から、アイデアを拝借しよう。

8.破壊的イノベーションとは何か。

 これまでにない簡単さ、便利さ、低価格、購入のしやすさなどによって、市場を変えたり、新たな市場を創造したりするイノベーションのこと。

9.市場において破壊的なイノベーションを生むもっとも良い方法は何か。

 トレードオフの力を信じよ。性能・機能の面では従来に比べgood enough(「まあまあ」)程度を目指し、シンプルさや値ごろ感で新たな利点をもたらすことを追求せよ。

10.good enough(「まあまあ」)程度とは、どういうことか。

 顧客が求める仕事をこなす程度には、最低ラインを超えているようなソリューション、性能、機能。従来の次元の「性能の良さ」をある程度放棄することによって、イノベーションへの新たな道が開ける。