では、カニバリゼーションに対する懸念にどう立ち向かえばよいだろうか。パネル討論では3つの意見が挙げられた。
1.脅威をチャンスに変える方法を見つける
これを行なう最も簡単な方法は、すでに存在するソリューションはあまりに高価すぎる、あるいは複雑すぎると考えて現在は購入していない潜在顧客を見つけることである。最近では、アップルのiPad以上にこれを明確に示す事例はないだろう。
iPadが発売されたとき、アナリストたちはアップルが販売している高価なコンピュータ製品の市場をiPadが侵食してしまうと懸念を示す可能性があると私は書いた。たしかにある程度そうしたことがあった、とアップルの最高技術責任者のティム・クックは、最近行なわれたアナリスト向け説明会で述べた。だがiPadを活用して人々に同社の製品を紹介することにより、それは完全に帳消しになり、それ以上のものがもたらされた。そしてもちろん、1500万台のiPadの販売や、生み出された100億ドルの売上は影響を受けなかった。「もしこれがカニバリゼーションならば、かなりいい気分だね」クックは冗談を言った。
2.何か違うことを、合理的に行う
価格競争が激しい市場で勝利しようとして、もし販売価格を下げるだけであれば、運命を甘んじて受け入れざるを得ない。プロクター・アンド・ギャンブルの社内では、「商品を薄める(dilute)のではなく、顧客に歓び(delight)をもたらせ」とよく言われる。P&Gのアジア研究開発担当副社長のマウリツィオ・マルケジーニは、同社が洗剤のブランドをカスタマイズして〈タイド ナチュラル〉というブランド名でインド市場に投入した事例を語ってくれた。これはインド市場のニーズに合わせた特製の商品だ。またP&Gアジア地区社長のデボラ・ヘンレッタは、市場に合わせ、それぞれに適切なマーケティング手法を使うべきだとも述べた。もしすべてに同じマーケティング手法や流通手段を使うならば、さまざまな顧客に、新たな利点を提供することは難しいだろう。
3.カニバリゼーションは実際には管理できない、ということを意識する
アダム・スミスの「見えざる手」、あるいはジョセフ・シュンペーターの「創造的破壊」によるかどうかは別にして、あるビジネスの機会が十分に大きいものであれば、誰かが必ずそれに気づいて参入してくる。その事業機会を競合会社に獲得されるぐらいならば、自社でその好機を捉えてはどうだろうか。
カニバリゼーションは、実際の問題である。だが、適切にそれを捉えることによって、そして適切な方法で戦略的に対処することで、大きな可能性がある成長戦略を追求していくことが可能となる。