ウソその3:営業担当者が言う、「もちろん、これは売れますよ」
起業家たちが苦労して経営資源をかき集めなければならないのに対して、企業に所属するイノベーターたちは、さまざまな経営資源を利用できる。残念ながら、当初の期待ほど役に立たずに終わる経営資源もある。
2、3年ほど前に我々は、ある新聞社の仕事をしたことがある。彼らは新しいオンライン商品を検討していた。情熱あふれる営業部隊は、大きな売上を予測した。そこで市場の需要を調査するために、3カ月間の試験販売を行った。しかし売上は低調だった。需要がなかったのだろうか。否、詳しく調べていくと、別の問題が明らかになった。その期間中に営業部隊は、電話営業や訪問営業を悲しいほど少ない回数しか行っていなかったのである。問題は、その新聞社が営業部隊に、未知の顧客に対してそれまでよりも安い商品を売り込むように指示したことである。予想されるように、コミッションによる報酬を得ている営業スタッフたちは、現場では売上が小さいものよりも大きいものを優先した。
既存の販売チャネルを活用して新製品を売り込むという考えは、非常に魅力的に思える。販売チャネルをゼロから築き上げるのは大変だからだ。また新製品の販売について、うまくいかないなどと言う営業スタッフにお目にかかることは稀だろう。
このウソの芽を摘むには、まず心理実験をしてみるとよい。自分は営業スタッフに、より多くの売上をあげろと指示しているのか、それとも少ない売上でよいとしているのか、自問してみよう。人は誰しも自分にとって意味のないことはしない。次に、試験販売をしっかり管理し、実際に販売チャネルで何が起こるかを観察してみる。売上の数字だけを見るのではない。電話営業や訪問営業の回数、新製品が売り込まれる頻度などをチェックするのだ。
ウソその4:経営陣が言う、「我々は何に対してもオープンだ」
ハーバードのマイケル・ポーター教授が世界に教えた最も重要なことのひとつは、戦略とは選択することである、ということだ。イノベーションについて考えるとき、経営陣はこの教訓をしばしば忘れてしまう。もしイノベーションの初期の段階で、何を検討するのか明確にするよう求められたならば、できるだけ多くの選択肢を残しておくのが正解だと考える経営陣が多いだろう。
これは役に立たない(逆説的だが、制約がイノベーションを促進することがある)ばかりでなく、的確でもない。たとえば数年前、我々はある大手ヘルスケア企業のイノベーション・チームにアドバイスをしたことがある。その企業は製品中心のビジネスモデルであったが、チームはそれとは対照的なサービス中心のビジネスモデルの事業を買収候補として検討していた。経営陣はチームに対して、我々は何に対してもオープンだ、と言い続けていた。だが、買収の意思決定をするまさにその瞬間、経営陣がサービスの世界に足を踏み入れる気などさらさらないことが明らかとなった。不幸なことに、このチームがそのことを知るまでには6カ月もかかり、それまで何も知らずに会議を重ねていたのだ。
上級役員たちの言う「オープン・マインド」をチェックする方法を考えよう。担当役員たちに、検討の議題を増やしていくのではなく、もっと絞り込むように要求してみる。役員たちを居心地のよい場所から押し出すように、早い段階でアイデアへの予算を要求したり、あるいはまったく違った市場セグメントにいる企業との提携を提案してみる。そうすればすぐに、自分にどの程度の行動の自由が与えられているかがわかるはずだ。
この4つのウソをつく人たちは、ウソ発見器も簡単に合格してしまう。心から、自分の言っていることを信じているからだ。そんなテストはするべきではない。そうではなく、顧客の需要、スケジュールの実現可能性、販売の見込み、自分の行動の自由度を調べる賢明な方法を見つけよう。