人材の多様性
前回指摘した通り、人材の多様性がイノベーションにとって重要になるのは、それがアイデアの多様性を担保することになるからだ。したがって、ここで重要になって来るのは異なるバックグラウンドを持っている人、異なる思考様式を持っている人を抱え、それらが化学反応を起こす仕組みを考えることが重要になる。
まず、異なる思考様式、多様な思考様式を持つ人材を保持するための鍵となるのが、①採用と②異動である。①においては、新卒採用時に多様な視点での採用活動が出来ているか、がチェックポイントとなる。特に人事部主導で、少数の面接官が同じチェックポイントで新卒採用を行っている場合、人材の多様性が損なわれる可能性がある。ここでは事業ポートフォリオの様に、手堅くリスクの低い人材とリスクはあるものの大化けする可能性のある「スパイキー人材」を、バランスよく採用することが求められるだろう。
これは中途採用も同様である。中途採用となると、一般には即戦力を雇い入れるという側面が強いため、自社との親和性や業務知識の類似性が重要視されることが多いが、敢えて異なる業界からも、ポテンシャル採用を行うというのも一つの考え方である。その上でさらに②異動の観点からは、定期的に業務ドメインを変更することで、多面的にモノを捉える視点を養うことが重要である。
昨今では、スペシャリストを育成するという名目から、長年同じ業務をやらせ続けるという風潮が強まっているが、これも対象となる領域次第であろう。例えば一人前になるまでに10年以上かかるのが当たり前という企業法務や財務、あるいは特殊な例では油田探査といった業務は例外的であり、多くの業務においてはせいぜい5~6年も経てば、学習カーブが寝てくるのは当然のことで、「スペシャリスト育成」の御旗の元に、千年一日のごとく同じ業務をやらせ続けるというのでは、「思考の多様性」など育みようがないだろう。
ヘイグループは数多くの管理職アセスメントを行っているが、一般に大きく業務ドメインを転換した経験を持つ人材ほど、リーダーシップコンピテンシーが高まる傾向がある。この点はむろん、専門性とのトレードオフなので、一概にドメインチェンジが望ましいとは言えないが、少なくともイノベーションを起こす人材の育成という観点からは、スペシャリスト一辺倒の考え方は危険だと言える。
その上で最後に指摘したいのが、異質な人材を異質な人材として尊重する文化の重要性だ。日本の企業社会は同化圧力が強すぎる。よく中途入社の人材に対して「もう我が社に慣れましたか?」といった言葉が挨拶がわりに投げかけられるが、そもそも異質なバックグラウンド、多様な思考を担保するために入社してもらっているわけで、「慣れ」てもらっては困るはずなのに、中途で入社した人材も自分色に染め上げようとする傾向が強い。
これは、いわゆる社風や価値観に関わる話なので、もし同化圧力が強い、異質な人材を受け入れることが出来ないという会社であれば、「○○ウェイ」の様な形で、「異質な考え方、多様性を受け入れる」ということを明文化し、価値観や称揚される行動として共有して行くことが必要だろう。