上下間の風通しの良さ

 イノベーションの多くが若手によって主導されたという過去の事実を見る限り、現場や中堅管理職から自由闊達に上層部に対して意見具申がなされる、アイデアが提案されるというのはイノベーションの実現においては必須の要件である。

 人事面の課題としてこれを捉えてみると、大きく①管理職における「聞き耳のリーダーシップ」の育成、②若手層における「モノ言う文化」の育成、という二つの人材育成課題に収斂される。聞き耳のリーダーシップとは、「人の話に対する傾聴力」のことである。前回指摘した通り、日本における権力較差指標(上司に対して権威を感ずる度合い)は世界四位の水準にあるため、相当意識的に現場や若手から「声を引き出す」ことを促さない限り、問題意識や改善提案が行われない可能性がある。これがリーダーシップにおける「聞き耳のリーダーシップ」の育成の問題である。

 そして同時に求められるのが、②若手層における「モノ言う文化」の醸成である。管理職層がいくら「聞く耳」を持ったとしても、当の若手現場層に「言うべきこと」がなければ無駄である。ではどのようにすれば「モノ言う文化」が醸成できるのであろうか?文化を醸成するのに一番手っ取り早いのは、組織における価値観と結びつけて行動を強化することである。

 つまり「モノ言う」行動が奨励され、それを実際に行った人が何らかの形でプラスとなる報酬(必ずしも経済的なものではなく)を受け取る、ということが様々な場所において行われる結果、組織学習として「モノを言うことは、自分にとってプラスになる」という概念が埋め込まれる。言葉では表面上「モノ言う文化」を奨励しておきながら、会議の場で上司に反対意見をぶつけたところ左遷させられた、といったことが起こっているのでは認知不協和が発生し、学習は促進されない。

 まず、奨励される行動や考え方を明文化する、つまり「ウェイ」を規定した上で、その「ウェイ」通りに行動した人を褒め、その様に行動しない人にペナルティを与えることで、その組織の中において、「価値あるとされる考え方・行動」を根付かせていくことが必要だろう。