前回は、マーケティング・リフレーミングの発想をSWOT分析などの戦略策定の標準的なアプローチと比較しました。要約すれば、リフレーミングの特徴は、「弱みは強み」と考える発想にあります。この「弱みは強み」という命題の意義については、前回に説明したとおりです。しかし、釈然としないと感じる人も少なくないのではないでしょうか。「弱いものが強い」とは、「小さいものが大きい」「軽いものが重い」と言うようなものです。論理が錯綜していると感じられても仕方がないと思います。しかし、この命題は、物理現象ではなく、社会現象を対象としたものなのです。

コミュニケーションが紡ぎ出す現象

 コミュニケーションが紡ぎ出すこの現象においては、成功を支えていた構成が、当の成功の帰結として反転してしまうということが簡単に起こります。ですから、「弱みは強み」と考えることは非合理ではないのです。

 以下の事例を読めば、この「市場の逆説性」とでも言うべきこの反転は、驚くような話ではなく、広く知られた現象だということにすぐ気づいていただけると思います。むしろ問題は、私たちがマーケティングに臨む際に、そのことを忘れてしまい、反転など起こらないと思い込んでしまうことなのです。

 少し話を急ぎすぎたかもしれません。この思い込みの罠については、次回以降で論じることにして、今回は、市場の逆説性のメカニズムについて確認していくことにしましょう。

加算的集計による反転

 まずは、加算的集計による反転です。これには、加算的集計による自己成就的予言と、加算的集計による自己破壊的予言とがあります。

 加算的集計による自己成就的予言の具体例としては、風評による買い占め騒動を挙げることができます。何かのきっかけで、トイレットペーパーが不足するという誤った情報が広がってしまい、これを信じた人々がトイレットペーパーを買いに走ると、その加算的集計によって、本当にトイレットペーパーが不足してしまうという現象です。

 そして、加算的集計による自己破壊的予言の具体例としては、ファッションによる個性の表現が招く意図せざる帰結を挙げることができます。自分らしさを表現しようとした人々がファッションを次々と取り入れると、その加算的集計として、街には判で押したように似通った服装が溢れることになります。

 つまり、加算的集計による自己成就的予言とは、人々や組織が状況を誤って認識して起こした行動が加算され、集計されることで、誤った認識であったはずの状況が現実のものとして構成されてしまうという現象です。そして、加算的集計による自己破壊的予言とは、人々や組織がある状況を正しく認識して起こした行動が加算され、集計されることで、当初とは異なる状況が現実のものとして構成されてしまうという現象です。