時間的順序展開による反転
市場の逆説性のもうひとつのメカニズムは、時間的順序展開による反転です。これにも時間的順序展開による自己成就的予言と、時間的順序展開による自己破壊的予言とがあります。
時間的順序展開による自己成就的予言の具体例としては、価格競争の負のスパイラルを挙げることができます。ライバル社のA社が利益を度外視した安売りを計画しているとの誤った情報を真に受けたB社が対抗値下げの発表を行い、A社のさらなる対抗値下げを引き起こしてしまいます。これを見たB社は、当初の誤情報を間違いのないものと確信し、さらなる価格引き下げを行うというスパイラルのなかで、両社の商品が全く利益の出ない価格水準に突入していく。このような現象が価格競争の負のスパイラルです。
そして、時間的順序展開による自己破壊的予言の具体例としては、産業の発展が招く機会主義的行動の抑制を挙げることができます。産業の萌芽期には、質の悪い商品でも、とりあえず販売して利益を得ようとする機会主義的行動に、企業が走りやすいことが知られています。産業の萌芽期には、まだブランドが確立していないことが多く、質の悪い商品を販売しても、悪評が立って企業がダメージを受ける恐れが少ないからです。そのために産業のリーダー企業が、こうした機会主義的行動を他の企業が取ることを抑制するような政策をとり、産業の発展をうながそうとすることがあります。
しかし、産業が発展し、ブランドが確立するようになると、当初のリーダー企業の政策は無用の長物と化してしまいます。そのために、当初の政策にこだわるリーダー企業が、他企業の新たな行動に足をすくわれるということが起こります。
つまり、時間的順序展開による自己成就的予言とは、人々や組織が状況を誤って認識して起こした行動が、時間の流れのなかで人々や組織の新たな行動を引き起こすことで、誤った認識であったはずの状況が現実のものとして構成されてしまうという現象です。そして、時間的順序展開による自己破壊的予言とは、人々や組織がある状況を正しく認識して起こした行動が、時間の流れのなかで人々や組織の新たな行動を引き起こすことで、当初とは異なる状況が現実のものとして構成されてしまうという現象です。