サステナビリティ戦略の最前線を紹介する本連載の最終回は、企業が自ら積極的に環境基準の策定に乗り出す「ルール形成戦略」を紹介する。いまやサステナビリティは、もっともイノベイティブなスキルが要求されるのだ。
日本企業が苦手とする理由
これまでの議論を受けて、日本企業がサステナビリティを戦略として有効に機能させるためには、乗り越えるべき課題は根深いと感じている読者は多いだろう。なぜなら、必要とされる組織能力が日本企業にとって縁遠い活動ばかりであり、経験も積んで来れていないためだ。規制とはその緩和を要請するものであって、未来に向けて自分自身さえも対応を強いられる規制を自ら作り出すことなどしてこなかった。NGOも日本で活動している組織は力が弱く、政策立案に影響を及ぼす存在には育っていない。一方で、国際的なNGOに対しては、自社の環境対応が不十分だとされたくないという回避思考から抜け出せないでいる。だが苦手の克服に許される時間は僅かだ。無理にでも海外市場での成長に向けてサステナビリティ戦略で競争優位を築き上げていく活動を織り込み、実践を通じた組織学習を加速させていくしかない。
影響力を発揮できる問題発見に不可欠なNGOとの対話
そのためにはまず、自社が取り組むべき環境問題を特定しなければならない。そして、事業に環境問題の解決機能を埋め込み、事業の成長と連動して環境問題の解決力も大きくなっていくビジネスモデルとバリューチェーンを構築していくことが必要だ。効果的なのはNGOとの積極的な対話を推進することだ。
NGOは環境問題を解決するために、それぞれの問題に対して働きかけるべき企業を調査し、科学的証拠の収集を日々行っている。対象として選ばれた企業の多くは、なぜ我々が責任を追及されるのか?と、事態を飲み込むのに時間を要することが少なくない。たとえば、自社の孫請けである原材料供給業者の生産拠点から出る汚染水といったように問題を指摘されても、企業は自社の問題と把握し難い。逆を言えば、企業は環境問題がどこで発生していて、どのように影響を及ぼせるのかを的確に把握することができていないのである。だからこそNGOと対話を行って自社の想定を超えた影響力が行使できる大きな環境問題を特定していく活動が有効なのだ。