最新号で特集したキャリア特集。この問題は、企業や社会の仕組みも関わってくる。そんな中、昨年提唱された「40歳定年制」は個人のキャリアプランにとっても非常に有意義な制度ではないだろうか。
弊誌最新号はキャリアを特集しましたが、編集作業が終わったいまも、キャリアについて考える機会が多いものです。
そんななか前々から関心があったのが「40歳定年制」です。高齢化する社会で従来より定年年齢を下げるような施策は一見逆効果に見えるものですが、大いに検討すべき施策に思えてなりません。
まず企業の側から考えてみましょう。今日のような環境変化の激しい時代に、22歳の若者に40年以上にわたる雇用を保障するのは、リスクとして大きすぎます。また、この不確実な時代に企業が40年以上の雇用を保障するなど、誠実に考えると無責任でさえあります。高度成長期であれば、経済と企業の成長が予測できたので、このような超長期の雇用の保証は現実的だったでしょう。リストラが容易でない日本社会で、企業が正社員を増やすリスクが相当大きくなっています。40歳定年制にすれば、企業はもっと若者を採用しやくなるでしょう。
これを社会の側から考えてみると、若年層の雇用創出効果が大きいということになります。現在の日本社会は企業に雇われた人の権利が手厚く保障されていることが、かえって企業の採用を消極的にするインセンティブが働いてしまっています。その結果、若者の非正規雇用の増加を招いていると言わざるを得ません。長期的に日本の人口構成を考えると、企業は若い人を1人でも多く採用したいはずです。ところが正社員の入り口は非常に狭くなっており、仕事でチャンスを与えられる若者が少ない。40歳定年制により、社会全体として若い世代に仕事を通して成長のチャンスを与える効果は非常に大きいのではないでしょうか。
最後に、これを働く個人の側から考えてみましょう。大学卒業時の22歳で企業に就職すると、60歳ないしは65歳までの雇用が保証されることになります。これは大変ありがたい制度です。出世や処遇に差が出るとはいえ、基本的に大卒で入った会社から40年以上、お給料が保証されるのですから。一方で、個人の安定が成長の停滞を招くことも否定できません。保障された40年間で、自分の成長を設計しようとするには強い意志力が必要になります。将来の自分にとってよいことを、今の欲求より優先して実行することは、ふつうは相応難しいことです。
仮に、正社員でも40歳でもう一度採用の是非が問われるとなれば、20代、30代の過ごし方が劇的に変わってくるのではないでしょうか。40代以降の自分のキャリアを真剣に考えて仕事をする。この効果は、個人の成長にとって計り知れないでしょう。私自身、40代後半になって過去を振り返ると、仕事に余裕が出てきた30代の頃の停滞ぶりを認めざるを得ません。
もちろん、新しい制度はいいことづくめではありません。移行期間をどうするかなど解決すべき問題もまだまだ出てくるでしょう。これらの問題を考えていたところ、東京大学・柳川範之先生による書籍『日本成長戦略 40歳定年制』が刊行されました。本書では40歳定年制による、スキル再構築の機会をもらたすことも紹介されています。また制度のメリットだけでなく課題にも触れており、非常にフェアな書き方となっています。マクロの視点でキャリアの問題を考える際、本書の提案から多くの示唆が得られます。(編集長・岩佐文夫)