調査会社のNPDグループによれば、米国の平均的な世帯における2011年のケーブルテレビ利用料は月86ドルで、年平均6%のペースで増加しているが、世帯収入は横ばいか減少傾向にある。NPDは「有料テレビの平均利用料は2015年に123ドル、2020年には200ドルに増加する」と予想している。これは実に大きな数字だ。現時点の平均価格を参考に、月々の携帯電話の利用料を300ドル、ケーブルテレビの利用料を86ドル、米世帯の平均年収を45,800ドルとすれば、所得税を支払った後の可処分所得に占める電話とケーブルテレビ利用料の割合は13%に上ると考えられる。他のあらゆる業種――自動車から散髪、加工食品、衣料品に至るまで――が所得の残りをめぐって争うことになるのだ。
ちなみに、もはや過去のものとなりつつある固定電話と比較してみよう。この場合、各家庭が持つ電話番号は1つだけであり、長距離電話などの例外的な使い方をしない限り、月々の利用料は格安だった。しかも、電話の主な目的は通話のみであった。
ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された政府のデータ(下図:「家計支出の変化、カテゴリー別:2007~2011年」)が示す通り、ほとんどのカテゴリーで支出が減少しているにもかかわらず、携帯電話への支出はiPhoneが発売された2007年以降増え続けている。
(左欄の減少カテゴリーは上から「自動車購入」「アパレル関連製品・サービス」「娯楽」「外食」。右欄の増加カテゴリーは「通信サービス」)
ムーアの法則が支配する他の多くの経済分野と異なり、データストレージやデータ通信、衣料品などの低価格化が進む一方、携帯電話の利用料は増加の一途をたどっている。
このような状況は、従来通りの戦略分析に疑問を投げかけるものだ。これまで戦略分析における主要な作業は、従来の競合を観察し、彼らの意図と動向を探り、主なトレンド(限られた業界内でのみ意味を持つ)を明らかにすることだった。しかし今回のようなケースでは、従来の競合の存在は確かに重要だが、それらはすべて同じ船に乗っており、その船が属する業界が衰退すれば船にいる競合他社もすべて同じ運命をたどると考えることもできる。
このような競争を想定する場合、「斜めにいる競合他社」を広く考慮する必要がある。これらの競合は別の業種であったり、異なる課題に取り組んでいたり、あなたの会社と競争する意図さえないこともありうる。そうした相手を理解するには、自社が何をめぐって競争しているのかを再定義することが必要だ。このケースにおいて、それは家計に占める取り分である。この競争を分析するには、潜在顧客の頭の中を探り、彼らにとってのトレードオフの対象とその理由を理解しなければならない。そうしたやり方に慣れるまで、他社の戦略の成功によって被害を受けるリスクは非常に大きいといえる。
HBR.ORG原文:Industry Analysis Is Out of Date September 27, 2012