2. 人の善良さに対する信念
クリステンセンの信条のひとつに、人は基本的に善なる資質を持ち賢明である、というものがある。したがって彼はよく、このような問いを発する――「後から考えれば明らかに間違っていたことを、賢い人がやってしまったのはなぜか」。ほかの人々はこのような厳密な言い方はしない。より一般的な言い方はこうだ。「頭の良い人にとってはこんなに明らかなことを、理解できない人がいる。人はなぜ、これほど愚かなのか」。人の善良さに対する信念は、物事の真因を突きとめるうえで役に立ち、彼自身とその思想を魅力的で親しみやすいものにしている。
3. 根気
私がクリステンセンに出会った時、すでに彼は『イノベーションのジレンマ』によって名声を築いていた。1997年に発行され、グローバル・ビジネス・ブック賞に輝いた1冊だ。彼はそこで安住し、その後の10年間を、同書の内容を繰り返し説きながら楽に過ごすこともできたであろう。だがその後、彼は7冊の書籍を執筆している――より一般的な内容のものもあり、医療や教育など特定の分野を取り上げているものもある。さらにハーバード・ビジネス・レビューに13本の論文を発表し、うち3本はマッキンゼー賞を受賞した(彼の全15本の論文のうち、これで4本が受賞したことになる)。そして数多くの講演も行ってきた。ニューヨーカー誌で大きく紹介されたように、彼はできるだけ多くの人々に自分の理論を広めるという使命に全身全霊をささげ、語り続けている。こうした根気と、強い信仰(訳注:敬虔なモルモン教徒として知られる)によって、度重なる病と闘い見事に克服してきた(フォーブス誌の記事に詳しい)。
10年以上ともに仕事をしてきた私は、喜んでお伝えしたい――クリステンセンの親切心と寛大さに触れている記事は、彼の実像を正しく伝えている。成長とイノベーションにまつわる謎の多くを明らかにした彼は、人間としても素晴らしい。最終講義でのメッセージを初めて聞いてから12年経ったいまでも、私はフォーブス誌の書評と同意見である――「『イノベーション・オブ・ライフ』は個人の哲学について書かれた今世紀の名著である」(英文記事はこちら)。この本を、ビジネスの世界とは何のゆかりもない友人や家族に勧めてみてほしい。きっと感謝されるだろう。
HBR.ORG原文:The Secrets to Clay Christensen's Success May 15, 2012