リーダーに求められる能力はいくつもあるだろう。しかし、最も重要なある能力を欠けば、ほかのリーダーシップ能力にどれほど優れていても、人を牽引できないとゴールマンは主張する。それは、EQ(心の知性)をさらに発展させた「SQ」――社会性の知能指数である。


「新任のCEOを採用したのですが、7カ月で解任するはめになりました」。最近、東海岸にあるシンクタンクの会長がこんな不平をこぼすのを聞いた。「履歴書の内容は申し分なかったし、どの面接も見事にこなしたのです。ところが1、2週間もすると、スタッフから反発の声が聞こえるようになりました――『あなたが採用したのは一流のエコノミストかもしれませんが、社会性はゼロに等しい』と。彼は完全にコマンド・アンド・コントロール(指揮と統制)型の人間だったんです」

 同シンクタンクは、役員会、スタッフ、資金援助者、学者、政策専門家らが相互に関わるネットワークを中心に成り立っている。これらの関係を管理することがCEOの急務だったが、この組織のリーダーに大いに必要とされる対人関係スキルを彼は欠いていた。役員会は、ネットワークの人間関係を巧妙にさばけないCEOは、組織にダメージを与えかねないと判断した。

 社会性が、リーダーの成否を左右する重要なスキルであるのはなぜだろうか。理由のひとつとして、リーダーシップとは他者を通じて目標を達成する技術である、ということが挙げられる。

 私が同僚のリチャード・ボヤツィスとの共著で述べているように、技術的なスキルと自制心さえあれば、個人としては立派な貢献者になることができる(詳細は本誌2009年2月号「EQを超えて:SQリーダーシップ」を参照)。ところがリーダーになるためには、さらに対人関係スキル、つまり、他人の意見を聞き、コミュニケーションを図り、説得し、協力する能力が必要である(詳細は本誌2002年3月号「EQの高いリーダーが生み出す組織活力」を参照)。

 そして私は「リーダーシップ・コンピテンシー強化法」を読んで、この考えを新たにした(ジョン・H・ゼンガー、ジョセフ・R・フォークマン、スコット・K・エディンガー共著論文、本誌2012年2月号)。この説得力に富む主張によれば、リーダーのコンピテンシーは異なる能力の相互作用によってもたらされる。リーダーが異なる複数の長所からなるコンピテンシーを発揮するほど、業績も向上するという。

 だがほかにも、きわめて重要な原則がある。特定のコンピテンシーは――特にリーダーの階層が高いほど――ほかより重要になるということだ。最高責任者レベルの場合、技術的なノウハウの重要性は、他人に影響を及ぼす能力に比べて格段に小さくなる。技術的なスキルは人を採用すれば得られるが、その人のモチベーションを引き出し、適切に導き、やりがいを与えるのはリーダーの能力次第だ。