キーワード①UNCONTROLLABLE
アンコントローラブルな世界ではPRパーソンが活躍する?

「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」本誌でもLINE株式会社の執行役員、田端信太郎さんが指摘していたように、ソーシャルメディアの登場で情報の編集権は企業や既存のメディアの手をはなれ、生活者の手に移りつつあります。この状況の中で、企業はソーシャルメディアで語られる内容を一切コントロールすることはできません。企業やブランドのための情報形成において、他人に情報を作られるというアンコントローラブルな領域が拡大しつつあるということです。

 企業はCMをやるにしろ、イベントを実施するにしろ、記者会見を開催するにしろ、それを見た生活者がどう反応するか予想した上で行動を起こさなくてはならなくなりました。

「ならなくなった」と書きましたが、この事前予測はソーシャルメディアの登場以前から本来は行われていなければならないことでした。だって、コミュニケーションは本来相手の反応を変化させるために行うわけですから。

 でも、一方的にメッセージを発信してきた広告の作り手やメディアの発信者は、いかにメッセージを伝達するかという手法にエネルギーを集中させてきたので、それを見た人にどういじられるかとか、リアクションにどう応えるかということに対して案外無頓着だったのです。

 はっきりいって「いじられるのに慣れていない」広告やメディアの作り手が多かったのです。ネットニュースにしても、新規参入したサイトにはコメント欄が普通に付いているのに、大手新聞社の記事にはコメントが付けられない。そんな、状況がまさにトラディショナルなメディアやそこに乗っかる広告の作り手のメンタリティを象徴するものでした。

 ソーシャルメディアがこれだけ普及した今、情報の送り手は「いじられる」ことを前提にしたコンテンツ開発や、いじられたことへの再反応が求めらます。商品に対する不満がソーシャルメディア上に書かれ時などは特に企業側の対応が試されます。危機をポジティブに変換する「神対応」のような高度なテクニックも必要になります。

 アンコントローラブルな世界は広告キャンペーンの作り方を根底から変化させると思っています。かつての広告は、すべてが実施前にフィクスされていました。コピーを決めて、デザインを決めて、メディアを買って、スタートボタンを押せば、予定されたCMが予定されたスケジュールでオンエアされたわけです。もちろん広告をつくる我々やクライアントさんの多くもサラリーマンなので、キャンペーン実施まえにすべての予定を決定して、予算を確保しておかなければいけないという事情もありました。

 しかし、アンコントローラブルな世界では、すべての予算をキャンペーン実施前にフィクスしてしまうことはいいことなのでしょうか?すべての予算の使い道がガチガチに決められていたら、自分たちが仕掛ける広告やイベントに対する生活者や競合企業(競合企業さんもソーシャルメディアを使う時代ですからね)のリアクションに対して再び反応する必要がある時、バジェットがなければ何の手も打てなくなってしまいます。アンコントローラブル時代のコミュニケーションはその組み立て方や予算編成の仕方まで変えるようになるでしょう。

 僕のもう1つの予想はPRパーソンの活躍です。広告業界の人たちは「アンコントローラブルな未知の世界に突入した」と思っているかもしれませんが、じつはPRパーソンにとってはそもそも最初から仕事の前提がアンコントローラブルだったわけです。プレスリリースを出してみる、記者会見をやってみる、その結果どうメディアに取り上げられるか、どんな記事が書かれて、どんな番組がオンエアされるか一切コントロールできない仕事がPRです。

 PRパーソンはその媒体の性格を熟知し、どんな情報を提供すれば、あるいは記者会見でどんな絵作りをすれば、最終的にどんな番組に編集されるか逆算してコミュニケーションを設計して来ました。そのことはソーシャルメディアにも当てはまります。すぐれたPRパーソンはリアクションの予想ができる人なのです。お笑いで言えばいい「ボケ役」ともいえるでしょう。

 僕はPRパーソンがコミュニケーションの全体設計を担うようになるべきだとココ数年言い続けていますが(それは自分がPR部門出身だっていうのもあるのですが)、そういうことをいうのはこんな理由からなのです。あ、もちろん、広告業界の人たちが「いじられ上手」になっていくのも大事ですよ。