広告業界が、イノベーションを意識し始めた

木村:ところで、今年カンヌで注目しているニュースはありますか?

カズー:イノベーションライオンですね。今年新設された新しい審査カテゴリーです。コミュニケーションキャンペーンに結実する前の、テクノロジー段階でのイノベーションを評価しようというカテゴリーです。製造業界やアカデミックな領域では10年くらい言われ続けている「イノベーション」というキーワードを、広告業界がやっと真剣に考え始めた。僕はこのイノベーションライオンが何かの答えを出すはずと思っています。

木村:これから、テクノロジーが広告を次々に進化させていくのであれば、まだ実現していないイノベーションの種を見つけることが、広告業界の進化やクリエイティビティの進化に大切なのではないかということですよね。イノベーションライオンは実用化されていないアイデアもエントリーできるところが特徴ですし、ショートリストに残ったアイデアは、審査員の前でプレゼンして審査するというシステムも新しい。楽しみですね。

 広告業界のイノベーションの話といえば、昨年カンヌのセミナーで、広告界のレジェンドと言われている、BBH創設者のSir John Hegarty氏がこんな問題提起をしていたのを思い出します。人々が広告に対して以前より好きでなくなっているという調査データについて、「数ある産業の中で、過去よりもクオリティが落ちた産業なんて広告業界くらいしかないだろ」と言っていました。カズーさんの目から見て、今なぜ広告にイノベーションが大切なんですか?

カズー:僕は広告自体が劣化したと思わないけど、広告以外のものがものすごく進化したと思う。今は、世の中のいろんな新しいものや面白いものすべてが、広告のライバルになってしまった。たとえば、朝テレビで流れているアニメとその横のスクリーンに流れるフェイスブックにその広告は勝てるかどうか。広告のライバルたちは、「ながら」でも楽しめるし、入り口に気持ちのハードルがない。そういうものに勝てるものを提供しないといけないのです。

木村:生活者が見たいものを選べる時代になったのだから、生活者が本当に見たいものを作ることができなければ見向きもされない。ということですね。

カズー:さらにいうと、みんなが同じ情報を共有するということも少なくなりました。昔は祭りがあるとそれにみんなが集まったけど、今は地元の祭りもあれば、フェスもあれば、仲間内でのパーティもある。どの祭りに行こうかを選ぶことができるんです。これはみんなが見ているものがテレビなどのマス媒体から、モバイルやタブレットなどのパーソナルスクリーンになったことが大きいと思います。共有しているグループがいっぱいある中で、僕らは本当に行きたくなる祭りをオーガナイズしなければいけないようになったのです。