For the people, for the country, for the earth

木村:みんなが来てくれる祭りは、ひとことでいうとどうしたら作れるのですか?

カズー:ひとことでいうと「本当にユーザーが必要なものを提供する」ということ。

 ユーティリティとして本当に役に立っているか、あるいはエンタテイメントとして本当に楽しめるものかどうか。今こそ、僕らはシンプルな欲求に立ち返らなきゃいけないんです。

木村:確かに、ウェブ上にキャンペーンサイトを作っても、よっぽど役に立つかよっぽど面白くないと誰も見にこないですよね。ウェブは魔法のように思われがちで、そこに情報を格納しただけで伝わった気になってしまうけれど、それは大間違いですよね。では本当にユーザーのためになるものを提供するために、広告業界に一番必要な視点とは何だと思いますか?

カズー:世の中のニーズを形にしていく。そのために今存在しないものを実現する。というイノベーションの視点ですね。

 こういう商品を作ると世の中がこういう風によくなる。そのプロトタイプを作る感覚。そんなイノベーションの視点で広告開発や商品開発をしなければいけない。

 なんとなく世の中を分析してこういうものが売れそうだということや、競合に比べてこういう点がいいという視点ではなくて、世の中が必要として、世の中の人のためになるという視点での商品開発。For the people, for the country, for the earthということです。

広告開発と商品開発の融合。

木村:カズーさんは具体的にどんな取り組みをしているんですか?

カズー:TBWA博報堂は、オープン・イノベーションという組織を作りました。そこでは世の中のニーズと、企業が持っている技術を、僕らが組み合わせてプロトタイプを作っていく試みをしているんです。生活者のニーズ発想で、商品開発と広告開発を同時で進めていくプロセスです。

木村:広告会社が商品開発に本気で取り込んでいくというのは、必然的なチャレンジだと思います。受け取るお客さんはひとりなんだから、そもそも広告と商品が分離していてはいけないと思うし、商品が出来上がってから広告を作るよりも、お客さんが受け取る価値を統合的に設計した方が本質的だと思います。最近のカンヌの潮流からも、広告開発と商品開発やサービス開発との融合というのはイノベーションの方向だと思います。

カズー:イノベーションにはふたつの種類があると思います。目的なきイノベーションと実用化のためのイノベーション。

 技術者の方と接していると、すばらしい技術なのに、その技術をどう世の中にいかしていったらいいかがわからなくて眠ってしまうケースが非常に多いんです。さらに、ハードの発明があっても、それをいろんな会社に持ちこんで製品化の交渉をするのも大変だったりします。この実用化というふたつめのイノベーションのためには、世の中の人のことをよく知っていることが1番重要。それが得意な僕ら広告のプロがいて、そこに技術のプロがいて、その場でプロトタイプを生み出していく。そんな組織なんです。

木村:日本で最初に開発された技術を欧米の企業が実用化して一般に普及するというケースは非常に多いし、国際広告賞ではそういうケースが多く表彰されます。僕が審査をやっていていつも印象に残るのが、「枯れた技術の水平思考」という言葉です。次々と生み出される技術の芽を世の中の人が使えるようにする、この実用化のイノベーションのスキルをもっと高めれば、日本は再びイノベーション先進国になれると思います。

カズー:本当のイノベーションを起こした人には必ず、世の中をこうよくしたい。という視点がまずあって、それからそれを実現するための発明が起きていると思うのです。イノベーションに必要なのは、その商品は人類の何を進化させるのか、その商品は人類を何ミリ前進させるか、という視点なんだと思います。

木村:今晩のイノベーションライオンの受賞結果が楽しみですね。ありがとうございました。