本誌2013年7月号(6月10日発売)の特集は「広告は変われるか」。これに合わせ、HBR.ORGで展開された「広告の未来」特集から8本の記事を厳選し、お届けする。第6回は、米大手広告代理店Deutsch(ドイチ)ロス支社の最高デジタル責任者、ウィンストン・ビンチの提案を取り上げる。新たなマーケティングの標準に応えるためには、代理店はデジタル面の能力を強化し、発明家のメンタリティーと体質を持つことが求められるという。そのために必要となる7つの改革を紹介する。


 テレビで生放送されるイベントを除けば、CMを回避するのは簡単だ。人々はCMをスキップできる。そして、今やアメリカの家庭の46%には、デジタルレコーダーが備わっている。生活におけるオンデマンドの利用も増えるばかりだ。ディッシュネットワーク(Dish Network)のホッパーwithスリングという転送機能付きレコーダーは、CMを完全に取り除いて再生することができ、その技術は今年のCESの大賞に選ばれた。ネットフリックスは先日、デイビッド・フィンチャー監督のオリジナル新作ドラマ「House of Cards」シリーズを鳴り物入りで公開したが、従来の配信形式とは異なり、13話すべてを同時配信している。いつでも、どこでも、好きなように視聴でき、CMに邪魔されることもない。

 ベンチャー投資家のメアリー・ミーカーがインターネットの状況について指摘したとおり、デジタル技術は生活のあらゆる局面を浸食している。写真、エンタテインメント、教育、交通輸送、買い物、出版、さらには所有権の概念に至るまで、思いつくものは何でもだ。従来型の広告の付け入るすきがなくなる中で、広告企業は新たな方策を次から次へと考えなくてはならない。消費者が気に入るコンテンツをつくり彼らを引き付ける、新たなモデルと方法を確立する必要があるのだ。

 私たちは、新しいマーケティングのやり方に素早く適応できていないのだ。私は皆さんと同様、素晴らしい広告が大好きだし、そのような広告を生み出す創造力にあふれた戦略的な頭脳に驚嘆する。だが、いまやマーケティングで成功するためには、素晴らしい広告以外にも必要なものが山ほどあるのだ。求められるのは、発明家のように考えて行動することである。つまり、新しい製品を生み出す能力を持ち、常に新しいアイデア、技術、コンテンツ形式を試し、多くの制作物を次々と生み出していくことだ。これには、大掛かりだが実現可能な、文化と組織の改革が必要となる。

改革その1:代理店は、最高デジタル責任者の採用を最優先事項とするべきである。

 最高デジタル責任者は次の使命を負う――デジタルに関する伝道師となり、プロセスを構築・導入し、適切な人材を雇い、ケイパビリティと事業を開拓し、クライアントやパートナーの最高経営幹部にコンサルティングを行う。「いるほうが望ましい」のではなく、必須なのだ。

 今日のデジタルマーケティングの生態系は、かつてなく複雑であり、専門化と集中化が求められている。このことに気づき投資している企業は、ブランドであればスターバックス、代理店であればアーノルド・ワールドワイド(Arnold Worldwide)、ハバス(Havas)、オグルヴィ(Ogilvy)、クリスピン・ポーター+ボガスキー(CP+B)、メイド・ムーブメント(Made Movement)などである。