:広告会社との連携については?

井口:2つのコラボが可能だと思っています。1つめは最初にコミュニケーション戦略の全体設計図を書くタイミングでの参画。それから、コミュニケーションを実施するタイミングで「併走」すること。

:プランニングの段階でクリエイティブディレクターがマスメディアやソーシャルメディアでの反響にも配慮して、PRプランを全体計画に内包しておくことは必要ですよね。

井口:そうです。今、海外のPR業界でも口々に言われているのが「ストーリーテリングの重要性」です。どういうことかというと、広告主が一方的に情報発信をするのではなく、生活者がその商品なりサービスを理解・共感し、自発的に語ってもらうようにしなければいけません。そういう情報発信のためのコンテンツやストーリーを創り上げ、誰にどこでどのように情報接触させるべきなのかをPRと広告で連携していくべきです。

 あとカンヌでも常に感じるのが、マーケティング・コミュニケーションとコーポレート・コミュニケーションの融合ということですね。

:それはどういうことですか?

井口:たとえば、商品の発売時に、商品のスペックだけでなく、なぜその企業がその商品を世に出すのかという企業視点のバックグラウンド情報も同時に発信していくということです。それを積み重ねることでコモディティ化した商品でも差別化が可能だし、企業ブランドへのロイヤルティをつくっていくことができるのです。これは商品、サービスの発売時に限らず、あらゆる企業の情報発信機会を活用すべき、ということにつながります。

 今回のPRライオンの受賞作品の中だと、社員の入社プロセスをエンタテインメントにしてしまったハイネケンの「キャンディデート」というキャンペーンは企業視点が活かされたものだと思います。

:入社面接の時がドッキリになっていて、救命活動とかチャンピオンズリーグの試合に役立つスキルが密かに試されるってやつですね。

井口:ハイネケンの商品PRはいつもおもしろいことをやっているので、生活者の関心も高いのですが、どうも企業そのものの姿勢が社会に伝わっていないのではないか、という課題に突き当たります。もっと企業のファンを作らねば、ということですね。そこで「Open Your World」をスローガンに常にチャレンジングでいようという企業姿勢を伝えるインターナル・コミュニケーションをするのですが、このタイミングを利用して、社内のみならず、外部にもそのイメージをうまく伝える仕組みとなっています。

:情報を商品やサービスにリンクする企業視点の情報開発って実は重要ですね。そこがPRパーソンの腕の見せ所かもしれません。初期の情報発信だけでなく、もうひとつは「併走」が必要とおっしゃっていましたが。