池の上のボートの位置を微修正する仕事

井口:ソーシャルメディアでの生活者のリアクションが企業ブランドに大きな影響を与える時代となりました。ですから、キャンペーンが開始された後もソーシャルメディアでのリアクションを見ながらマーケティング戦略を微調整していく必要があるわけです。そこに我々PR会社の知見が役立つと思います。

前回もこの連載に書きましたけど、コミュニケーション領域の中でアンコントローラブルな部分が拡大してきていて、まさにソーシャルにおける生活者の反応にどうリアクションしていくかが、今後の企業のコミュニケーション活動の中心になってきますよね。

井口:そうです。その状況を常にウォッチしていくような、小さなPDCMをずっとまわして行くことが必要かなと。むっちゃ大変ですけどね。

:アンコントローラブルな世界で、企業ブランドを保っていく作業って具体的にはどういうものなんですか?

井口:池の上のボートを想像してみてください。企業側は広い池のセンターポジションに自分のボートを置いておきたいわけですよ。池というのは社会、生活者が企業に持つイメージを映し出した世界と考えてみてください。

:なるほど、その場所がその企業やブランドにとって理想の場所なわけですね。

井口:そうです、でも池には外部環境、例えば雨や風などいろんな状況が発生し、ボートは一定の場所になかなかとどまらない。その外部環境がすなわちマスメディアやソーシャル・メディアにおける生活者の声というわけです。でも我々は直接手を伸ばしてそのボートを本来の場所に戻すことはできない。そこで、僕らは池に石をなげて間接的な波紋をつくってボートを元の場所に戻すようにするわけです。

:ソーシャルメディアの波の上に漂う得意先のポジションは直接いじるのではなくて、議論を誘発して微調整していくわけですね。まさにファシリテーターとしての役割ですね。なんか、カーリングとかペタンクの世界ですね。

井口:この作業は常に企業のマーケティング担当者の横に位置し、併走する形でなされていかねばなりません。「PRパーソンは企業の情報参謀」とよく言われますが、このように常に情報を把握し、即時の判断を企業と共にしていく役割を担っているからこそだと思います。これは欧米では当たり前ですが、現状の日本企業で出来ているところはまだまだ少ないと思います。