生活者の声を企業がいじるマーケティングへ

:井口さんが面白いと思った、今年のカンヌの作品は?

井口:PR部門ではないのですが、先進国のツイッターでつぶやかれる愚痴を、発展途上国の人に見せると、なんでこんな贅沢なことで愚痴を言っているんだろうというリアクショになる。そういう活動を通じて「世界にはもっと大変な問題がたくさんある」ということを啓発する仕事があったんです。おもしろい試みですよね。

:今、企業の活動が生活者にどういじられるかという時代になったって話をしていたのに、そのケースは立場が逆転していて、生活者の声を企業がいじるってスタンスになってますよね。おもしろい。僕のみたPRでも、シンガポールの仕事なんですけど、ツイッターで「暇だ~」とかつぶやくとボランティアしませんかって表示される仕事があった。これも、もはや企業からの情報発信ではなく、生活者に企業がリアクションするパターンですよね。

井口:そうですね。それから、僕らはよく「自分ゴト化」って言葉を使うじゃないですか。

:まさにストーリーテリングの技術ですよね。「自分ゴト化」は。

井口:そうです、商品のスペックとか企業側の情報だけでなく、生活者のライフスタイルや、世の中のトレンドの中で商品やサービスが生活者にいかに価値があるのかを理解・共感され、自発的に語られる投げかけをしなければいけません。僕らは09年あたりから「自分ゴト化」を試みているわけですが、「自分ゴト化」を強調している作品が今年多く見られました。彼らはよく「make them care」などと表現しますが、これを見ると遅れていると言われがちな日本のPRも世界の先端をいっている部分もあるんじゃないかなと感じますね。

:世界のPR業界で自慢できる仕事をつくるべくがんばりましょう。