課題解決力が高いモバイル
嶋:たしかに、モバイルという小さなデバイスで、スケールのでかい課題解決に挑んだ仕事が多かったね。
中村:そうです。今年のグランプリはフィリピンでしたし、課題や解決もグローバルです。もはや「ザッツ広告」はほぼショートリストにありませんでした。ユーティリティなんです。グランプリの「Smart TXTBKS」は、ケータイキャリア会社なんですが、使われなくなったフィーチャー・フォンに、教科書のデータが入ったSIMカードを入れてケータイ教科書にした、という仕事なんです。SIMカードってテキストだったらかなりの容量が入るんです。フィリピンの子供たちの学習環境を改善しようという狙いでした。
嶋:スマホが流行って、いらなくなったフィーチャー・フォンが教科書に生まれ変わるキャンペーンなんだね。
中村:その通りです。タブレットが容易に手に入らない環境だから産まれた再利用。ほかにも「Silverline」という、使われなくなったiPhone3Gをシニア向けのケータイにする「リユースもの」もシルバーを受賞しています。
嶋:ともに、いらなくなったモノを世の中に役立つものに変身させる仕事なんだね。
中村:そうなんです。モバイルの作品の多くは企業の課題解決だけではなく、社会の課題解決まで実現するものが多かったんですよ。ゴールドを受賞した中国の「MISSING CHILDREN」はすごくて、ケータイで誘拐された子供たちを見つけ出す仕事なんです。
嶋:どうやって?
中村:中国では、毎年2万人の子供が誘拐され利用されたあげく、ストリートチルドレンになってしまうケースが多い。そこで、ケータイの顔認証システムを活用して、人々にストリートチルドレンを見つけたらその子たちの写真をとるように呼びかけたんです。子供を誘拐された親が持っていた写真と、ケータイで撮影された写真を照合してマッチングをおこなうわけです。600人以上の子供の身元確認に成功しています。
嶋:その課題解決力は半端じゃないね。
中村:生活の中で役に立つケースも多かったです。ユーティリティとして優れているモノ。NatWestというイギリスの銀行の仕事は、キャッシュカードを忘れても、ケータイから暗証番号を入力すれば、キャッシュディスペンサーで10ポンドまでおろすことができるんです。
嶋:財布を落としちゃってもとりあえずケータイがあれば家には帰れるわけだね。これはテクノロジーを活用したあらたなサービス開発だね。そういう、日常のなかのちょっとこまったことを解決する施策は、ケータイを使うことでまだまだいろいろできそうだね。とにかくソリューション志向が高い。いろんな受賞作をみていると、社会に役立つことや、生活に役立つ仕組みやコンテンツをつくることでブランディングを行っているものがおおいね。
中村:そうですね。それに対して日本からの作品はユーティリティよりもクラフトをアピールするものが多かったです。