物を売ってよしとしない――これがアマゾンの成功の秘訣であることは明らかだ。この洞察は非常識でも不合理でもない。企業が製品・サービスについて知られたくないことを(その真否はどうであれ)、顧客は容易に探り当ててしまう、という市場の現実を反映しているだけだ。ベゾスは、適切な推薦とレビュー、つまり良きアドバイスが、デジタルによる宣伝に勝るブランド投資になると考えた。「よりうまく売る」のではなく、有用性を前面に押し出し、有益な情報を隠さず提示することで購買を勝ち取るという方法だ。販売を目的とした広告とプロモーションではなく、「画期的なアドバイス」を常に重視することで、アマゾンは顧客の行動様式と期待を変容させた。顧客からの信頼は、意思決定を助けるという使命をまっとうすることで生じるのであり、集客効果を計算して得られるものではない。
これこそ、デジタル時代におけるブランド構築のあり方であろう。モバイル化やタブレット化が進む環境では、「アドバタイジング」はますます「アドバイス」と「アデュケーション」(aducation:広告を通して消費者を教育すること)に取って代わられる(注 :直接的な販売行為を介さず顧客を教育する、アップルのジーニアスバーのような活動を含む。BMWが実践する顧客教育に関する英文記事はこちら)。これらは販売戦術を超えて顧客に有意義な体験を提供するので、効果的な訴求方法となり、顧客の感情に訴えかけることにもなる。顧客を製品・サービスについてより詳しくし、自信を持てるようにするにはどうすべきか――デジタル技術の進化は、この点について企業に再考を迫っている。バーゲンセールに終始していては、顧客は価値ではなく価格に注目するようになるばかりで、賢くはならない。
アドバイス/アデュケーション」によるマーケティングの取り組みの第一歩は、広告を次のように再定義することから始まる――広告を、顧客に対するブランド価値向上のためだけでなく、自社に対する顧客の価値を高めるための投資とするのだ。アマゾンはこの理念に基づいて革新的な再投資を行ったため、小売業のあり方を変えることに成功した。販売行為はユーザー体験を形成する原動力ではなく、売上げはユーザー体験からもたらされる良き副産物にすぎない。このような、デジタルを活用した洗練された方法はいまだにマーケティングの主流にはなっていない。
小売りは「ショールーミング現象」にさらされているが、広告とプロモーションも似たような状況にある(注:ショールーミングとは、実店舗で商品を確認し、その後オンラインで安値で購入すること)。小売りの場合、顧客は実店舗の売り場でこっそり(あるいは堂々と)携帯を取り出して価格をチェックする。しかし典型的な広告やオファー、あるいはコール・トゥ・アクション(CTA:顧客の行動を喚起するもの)については、検索のためのデータのひとつとして扱っている。それは広告やクーポンが、信用するに値しないものだからだ。皮肉にも、それがデジタル広告における「ブランド」の価値でもある。購入可能なあらゆるものは、商品情報や価格、クチコミを調べたり、アマゾンで見たりできる。率直にいえば、広告はブランド認知を高める機会というより、顧客がデジタルによる事前調査を行うきっかけとなってしまっているのだ。