世界のビジネス・スクールのなかで、起業論はいま最も盛り上がりを見せる分野である。全米の多くの大学で、起業プログラムを立ち上げる動きがあり、起業論に特化した教育で世界的に有名なバブソン・カレッジ、伝統的に起業論を重視するスタンフォード大学やインディアナ大学だけでなく、ここ10年ほどは、多くの大学が起業プログラムを中心に据える動きを見せている。属人的と思われがちな起業家精神。学者たちがそれをどのように定量化して分析しようとしているのか。そして起業家たちに共通する素養はどのようなものなのか。本稿では起業研究のフロンティアから、日本への示唆に富んだ3つの論点「起業家精神とは何なのか」「大企業こそベンチャーを活用すべきか」「グローバルなローカルの視点は有効か」について論じていく。

起業家精神とは何なのか

 アントレプレナーシップの本場ともいえるアメリカでは、その学術成果から何がわかっているのだろうか。日本への示唆はあるのだろうか。

 実はアメリカの起業研究のテーマはきわめて多様なのが現状だ。図表「起業研究の主なテーマ」は、ミネソタ大学のシェイカー・ザーラらが2006年に学術誌『アントレプレナーシップ・セオリー・アンド・プラクティス』にまとめた、起業論の代表的な25の研究テーマである[注1]。いかに多様なテーマが研究されているかがわかるだろう。