特にQuipperは学習プラットフォームとして、制作・配信といった各種機能を切り分けて持っている。これまでの構築にこそ時間はかかったが、今となれば、モジュールを組み合わせて新サービスを作るスピードは、ゼロベースの開発と比較して圧倒的に速い。この特徴を「強み」と捉えて十分に生かすためにも、失敗を恐れずトライの回数を増やしていく作戦が合理的だと思う。

 その一方で注意しなければいけないのは、成功は難しいだろうと思って投げやりにサービスを作り、当たるはずだったものが当たらないようにしてしまうことだ。

 この「失敗への準備」「精魂込める」という2つの違うマインドを、チームの中でどのように両立していくかは悩みどろだ。僕はその解は、情報共有の度合いを高め、市場環境と戦略を皆がしっかり理解することで、毎回のトライを真剣に行う文化を作れるかどうかにあると思う。拠点同士の距離、多国籍性といったさまざまな難しさはあるが、テンション高く失敗を繰り返せる風土をQuipperに作ることに注力していきたい。

 もう1つ。自分が利用者の声を代弁していない、ということは忘れないよう自戒している。僕は大学時代にネットに初めて触れた。高校までの学習習慣で紙とペンに慣れ親しんでしまったからか、告白するなら、自分がいち学習者であったとき、デジタル学習に完全に馴染めるわけではない。僕の親の世代だったら、なおさらのことだろう。それだけ学習の習慣というのは身体に染み付き、拭い去りにくいものだ。

 しかし、例えば26歳のTakuyaは自分なりのデジタル学習を工夫して行いながら成長し、紙で勉強するのは時代錯誤の愚行だと心の底から信じている。デジタル学習普及への変革期である今、受容性の「世代差」はやっぱり大きいと感じる。

 そして、学習サービスというものが一般的に若年層や青年層を主ターゲットとしている以上、若い世代のサービス設計者こそが良いものを生み出せる可能性は高いように思う。Quipperを、そのような若者が伸び伸びと活躍できる場にしていくことに注力し、あまり僕自身の感性を信じすぎないように注意したい。

 ただ、これは「自分が本当に欲しいものを作れ」「自分自身で隅から隅までこだわり抜け」といった最近のトレンドとは間逆な考えだけに、戯言ではと自問することもある。

 つらつらと書いてきた。まあ、こうして悩みはあるものの、僕なりに最善を尽くしてQuipperの舵取りに努めているわけだが、DeNAで修行させてもらい、そしてQuipperを始めて2年半がたつ今、あえて起業家に1番重要だと思うことを挙げるならば何だろうか。

 現時点での答えは、「楽しく続けること」ではないかと思っている。

 成功にたどり着くまでは、同じ顔のメンバーで悩み、もがき続けることになる。想定外の問題は毎日のように起こるのに、想定していたようには立ち上がらない。そして往々にして、当初の予定よりも長期戦になる。「結果」だけに望みを託してモチベーションの源泉にするのではなく、その「過程」を楽しまないと、好奇心を保ち、腰を据えてプロジェクトに取り組むことは難しい。