そして不十分な報酬は、インナー・ワーク・ライフにマイナスに作用する。実際、アメリカ心理学会が行った最近の調査では、労働者の49%が「不十分な給料は職場でのストレスを高めている」と回答している。個人的な経済状況を心配し気を取られていれば、職場で創造的な解決策を生み出すことに意識を集中できないだろう。

 十分な報酬が重要である第3の理由は、マネジャーのほとんどが気づいていない。すなわち報酬を渡すことは、決して給与明細を渡すだけの行為ではない、ということである。それは企業にとって1人ひとりの社員がどれだけ価値があるかを伝えるメッセージだ。たとえば、社員は心の中でこう呟くだろう。「報酬を多くもらえるのは、自分が高く価値されているからで、仕事も重要であるということだろう。けれども報酬が少ないと、会社にとっての自分の価値を疑問に思うし、仕事に重要性がないように思えてくる。自分に価値を置かない彼らのために、頑張る必要はないだろう」

 ある優秀な女性ソフトウェア・エンジニアが記した日誌から、具体的な例を紹介しよう。彼女が所属する部門は過去にスピンオフされたが、再び同じ会社によって買収されることになった。このことを知った日の記述だ。

「今日、私が勤めるホテル・データは、ドリームスイート・ホテルの100%子会社になると聞かされた。私は28年前にドリームスイートに採用された。けれども1年半前、この会社は26年間勤めてきた私に辞表を提出するよう要求してきた。逆らえば解雇され、受け入れたとしても、ホテル・データでの仕事はあるが28年前に約束した待遇はすべて白紙にされる、という状況だった。26年間勤務してきた私に、一体何という扱いをするのだろう。私は1年半のあいだ、私を追い出した会社のために(クライアントとして)働いていたことになる」

 人は過小評価されていると感じた時、できるだけ早い機会に会社を辞める。では、転職の機会が訪れる可能性が最も高い人とは、どのような人だろうか。それは、企業が求める技術や能力を持っている人、つまり企業が失ってはならない優秀な人材である。年が明ける前に、彼女は他の多くの同僚と同様、よりよい環境を求めて辞職した。会社が発するメッセージが、あまりにも無分別で軽々しくなってしまったからである。

 皆さんにとって、報酬は価値を示すメッセージの他にどのような意味があるだろうか。


HBR.ORG原文:Valuing Your Most Valuable Assets October 10, 2011

 

テレサ・アマビール(Teresa Amabile)
ハーバード・ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクターでもある。

スティーブン・クレイマー(Steven Kramer)
心理学者、リサーチャー。テレサ・アマビールとの共著The Progress Principle(進捗の法則)がある。