その後の我々の研究では、人員削減が社員に与える影響がより克明なかたちで示されている。その実態は悲惨なものである。インナー・ワーク・ライフ(個人的職務経験)を形成する3つの要素――モチベーション、感情、認識――のすべてが損なわれるのだ(認識とは組織、経営陣、それに自分自身に対する見方を指す)。あるプログラマーが記した日誌を紹介しよう。これは彼女が勤務する情報サービス企業でリストラが始まった日に綴られたものだ(彼女は優秀なプログラマーであり、これ以前に実施されたレイオフを生き延びていた)。
「もう、この職場で何かを達成することは難しい。すでに39人が仕事を失い、これからさらに増えると思う。次はプロジェクト・マネジャーがターゲットになり、その後はいよいよ私たちの番だろう。ご丁寧にも文書で発表しているのだから、疑いようはない。まるで、夫の暴力にひたすら耐え忍ぶしかない妻になった気分だ。苦しい思いをすることがわかっているのに、それでも会社にすがるしかない。尊厳を守るためにみずから会社を去りたいところだが、そうできない自分に失望する。会社に自分の運命を左右されるのを、座して待っているだけだ」
夫の暴力に苦しむ妻――職場で感じる苦痛として、これ以上悲惨なものがあるだろうか。このプログラマーは後に実施されたレイオフでも対象から外れたが、組織に対する敬意も忠誠心も失った。内発的動機を発揮して仕事に取り組める社員は、もはや残っているのだろうか、と彼女は疑問を呈している。「命令すれば社員は線路に飛び込むと信じて疑っていない会社が、本当に馬鹿らしく思える。なんて愚かなのだろう」。間もなく彼女は自分の意志で会社を離れ、親しい同僚たちの多くも後に続いた。しかし実際には、彼らはずっと以前に心のなかで会社に辞表を突きつけていたのだ。
多くの論文やビジネス書が、社員にこうした被害を与えずにうまく人員削減を行う方法を提唱している(前述したカシオや我々の研究、およびデイビッド・ノアーのHealing the Wounds【2009年、未訳】、そしてコロンビア・ビジネススクールのジョエル・ブロックナーの研究もある)。しかし、痛みをまったく与えないリストラなどあり得ない。実行に踏み切る前に、企業は熟慮を重ねることが求められる。
数日前、親しい友人が電話をくれた。所属する会社が大規模なリストラを進めているそうだ。間もなく発表される新たな組織図では、すべての部署がリストラの対象となり、全従業員の3割がいなくなる。CEOは残った社員たちに、こう告げたそうだ。「2日間悲しむ猶予を与えるが、その後は立ち直って組織の再建に尽力してほしい」。はたして、それは可能だろうか。
HBR.ORG原文:Down with Knee-Jerk Downsizing October 28, 2011

テレサ・アマビール(Teresa Amabile)
ハーバード・ビジネススクール(エドセル・ブライアント・フォード記念講座)教授。ベンチャー経営学を担当。同スクールの研究ディレクターでもある。
スティーブン・クレイマー(Steven Kramer)
心理学者、リサーチャー。テレサ・アマビールとの共著The Progress Principle(進捗の法則)がある。