企業が自社の「江南スタイル」を求めるなら、サイから学べるシンプルな教訓がいくつかある。
●製品やブランドを、顧客が独自に扱えるようにする
著作権を問わないことや、曲のタイトルの最後に「~スタイル」とつけたことは、人々がこの曲を選び、改変し、拡散する大きな要因となった。これと同様に、製品やブランドも、顧客が独自に扱える要素を見出す必要がある。この優れた例として、オレオが2012年に展開した「デイリー・ツイスト」キャンペーンがある。人々は「いいね!」をクリックするに留まらず、オレオの100周年を祝うタイムリーで個人的で、画期的な方法を提案したのである。
●広くアイデアを募る。ただし、秩序立った方法を用いる
サイによるクラウドソーシングの対象は、ダンス・コミュニティに限定されていた。アイデアの源泉を、知識を有するグループに絞ることによって、創造性を高めることができたのだ。同時に、現実的でないアイデアを取り除くという無駄な時間が不要となった。無制限にクラウドソーシングを行えば、常軌を逸した結果を招く危険が生じる。ジャスティン・ビーバーがネット上でツアー候補地に関する意見を募ったところ、ユーザーの悪ふざけによって北朝鮮が1位になってしまったのが好例である。
●文化を越えて人々の心に響く、感情の共通項を見つける
サイは、「江南スタイル」のビデオは韓国のみに向けて製作したと述べている。しかし、ビデオもサイ自身も世界的な人気を博した。言葉やポップ・アイドル的なルックスの点で、世界的な通例から外れていたにもかかわらずである。つまるところ、彼の素晴らしい魅力は、「非アイドル的」で好感の持てる人物像であり、ありのままの自分の姿に満足していることである。いささか皮肉なことに、その魅力はジャスティン・ビーバーのマネジャーにも伝わり、サイは彼と契約を結ぶことになった。
ブランドが世界市場に進出すると、そこには既存ブランドがあふれており、困難に直面するものだ。海外の新興国市場が経験を積み、ブランドにより大きな信頼性を求めるようになると、企業(とくに後発の企業)が検討するべきなのは、サイのようなポジショニングだ。因習を打破し、楽しく、そして何よりも誠実であることだ。
最終的には、「江南スタイル」も一発屋で終わるかもしれない。だが、企業はその成功要因を見習うことで、ヒットを次々と飛ばせるようになれる可能性がある。
HBR.ORG原文:Marketing, Gangnam Style September 20, 2012

ダエ・リュン・チャン(Dae Ryun Chang)
ソウルの延世大学校ビジネス・スクールのマーケティング担当教授