本誌2013年11月号(10月10日発売)の特集テーマ「競争優位は持続するか」に合わせ、MBA必読の古典『企業成長の理論[第3版]』の抜粋を紹介する連載(全7回)。ペンローズの果敢な挑戦の意志を窺い知ることができる。
立論の性質
企業成長の包括的な理論は、いくつかの質的に種類の異なる成長のあり方について説明しなければならないし、企業自らの活動から生まれる一連の変化だけでなく、企業がコントロールできない外部の変化の影響についても考慮に入れなければならない。しかしながら、これらのすべてを同時に議論することはできない。そうしようとすれば、大きく異なる因果関係の間に深刻な混乱を招き、陳腐な筋立ての探偵小説に出てくる偶然のように、かなり運よく、また、あらかじめ決められた結論のために仕組まれたようにみえる一連のできごとを一般性をもつものとして記述するところまで、議論を堕落させてしまう。したがって、理論の展開は、段階を踏んで進めていかなければならない。
そこでまず、企業の性格、機能、およびその行動に影響する諸要因について論じる。次に、企業の性質に本来備わっている力、すなわち、企業が一定期間内に着手できる、あるいは着手を企てる拡張の量について、その可能性をつくり出し、誘因を与え、また、同時に限界を設ける力について検討していく。その後、この限界は性質上一時的なものであること、まさに拡張のプロセスのなかでその限界は後退していくこと、そして、1つの最適な拡張計画が完了すると、たとえあらゆる外的条件(需要と供給に関する条件を含む)が不変であったとしても、企業にさらなる拡張への新たな誘因を抱かせる新しい「不均衡」が生み出されることが示されていく。
本書での議論を通じて強調されるのは、企業の内部資源、すなわち、企業自らの資源から得られる生産的サービス、とりわけ企業内での経験を有する経営陣から得られる生産的サービスである。ある企業の使い慣れた資源が、その企業の経営陣(経営陣を最も広く定義した場合)が提供できる生産的サービスを形づくる。と同時に、経営陣の経験が、企業の他のあらゆる資源が提供できる生産的サービスに影響を与えるということが示される。経営陣が、利用可能な資源を最大限活用しようとすると、企業の継続的な成長を促す反面、成長率を制限するという、真に「ダイナミック」な相互作用のプロセスが生まれる。企業が「継承している」資源の重要な役割に議論の焦点を当てるため、まず企業の環境は、企業者が直面している可能性や限界に関する彼の心にある「イメージ」として扱われる。なぜならば、実際に人間の行動を決定するのは、結局のところ、このような「イメージ」だからである。経験が予想を確実なものとするかどうかは、また別の話である。ある企業がみる「需要」でさえ、企業が利用しうる生産的サービスによって大きく左右される。したがって、「拡張の方向性」、すなわち、ある企業が生産に関心を抱くようになる製品は、自社の資源と競争上の地位についての企業の見解との関係から分析することができる。この問題は、多角化の経済学に関する広範囲に及ぶ分析のなかで議論していく。