理想的には、本書の目的に照らした企業の規模は、企業が利益を生み出すために用いている資源全体(人材も含む)の現在価値で測定されるべきである。これは、現実には測ることがほとんど不可能である。ほんとうに満足できる規模の尺度はないものの、目的に応じた広い選択の余地がある。以下の章で展開される企業成長の分析は、ほとんどの場合、固定資産によって測定した成長に最も直接に適用可能である。この尺度はそれ自体欠点があり、別の尺度ではなくこれを選ぶ決定的な理由はない。本書の分析は、ほぼいかなる尺度の要求をも満たすよう適合させることはできるし、以下のページの適当な箇所で測定に関するさまざまな問題が論じられる。しかし、すでに示したように、総資産を尺度として用いると、1つの生産単位としての企業の規模を歪めてしまう可能性がある。なぜならば、総資産には企業の「社外投資」を含み、この社外投資は、企業が現金資源を完全に利用するのに十分な速さで自社の生産業務を拡大できないという理由だけで、大きくなることがあるからである。この点は、われわれが成長のプロセスを分析していくにつれて明らかになっていくだろう。
企業の動機づけ
企業の機能と特性に関する議論を締めくくる前に、企業の「動機づけ」、すなわち、企業はさまざまな行動をとるが、なぜそのように行動するのかについて若干の見解を示しておきたい。どんな人の行動もその真の目的を見出すことはひどく難しいとはいえ、企業のために意思決定をする人々が何らかの目的に即して行動していると仮定することは、理に適っている。他方、目的をもった行動は、その目的が何なのかを知らなければ理解できない。それゆえ、経済学者が企業の行動を理解しようとするならば、彼は企業がなぜある行動をとるのかについて、何か仮定を設けなければならない。経済学者は、自分の仮定が真の動機に符合していると確信すればするほど、企業行動を説明するために設計した理論への自信を深めるだろう。たとえ自分の仮定の「現実性」にあまり満足できなくても、彼の理論が分析や予測に大いに役立つということもありうるが、その理論は、彼の「理解したい」という欲求を満たさないし、理論に対する自信もそのぶんそがれてしまうだろう。
したがって、企業成長のプロセスの説明を目的とした理論は、2つのレベルで役に立つ。かりにその理論が、現実の企業の成長において「観察され」るできごとに符合するような結論をもたらす論理的モデルを示すだけだとしても、有用だろう。しかし、その理論がそうしたできごとの背景にある企業行動の理解を助けるものであれば、さらに有用性を増す。このため、企業はある目的のために行動すると仮定するならば、なぜ彼らが行動するかに関する説得力のある仮定を見つけなければならない。いずれにせよ、この理論の有用性は、特定の企業に関係する事実に照らしてしか検証できない。