本誌2013年10月号(9月10日発売)の特集は「顧客を読むマーケティング」。HBR.ORGからの関連記事の第9回は、迫りつつある「ブランド通貨」の波について。従来のクーポンやポイントカードをデジタル化・モバイル化することで、その価値を新たな次元へと高めることができる。
クーポン、ギフトカード、ロイヤルティ・ポイント――。小売業で実証済みのこれらのツールは、他のマーケティング手法に比べるとそれほど「セクシー」ではないかもしれない。しかし、これらを合わせると、1650億ドル以上の購買力(米国内)に相当する。その内訳は、購入されたギフトカードが1100億ドル、取得されたロイヤルティ・ポイントが480億ドル、使われた商品クーポンが50億ドル以上である(各金額の出展はリンク先の英文ウェブサイトを参照)。これは、米国内のeコマースの売上総額にほぼ匹敵する。
こうしたツールには共通の目的がある。それは、特定のブランドや小売業に対する購買力を消費者に少しずつ与えることによって、購入意思決定に影響を及ぼすことである。しかし、消費者は個々のクーポンやポイントをバラバラに使う(クーポン類を合算することが可能な場合もあるだろうが、多くの手間を要する)。そして保管場所もそれぞれ違う――よくあるのが、引き出しやフォルダの中で忘れ去られて、結局は使用されないというケースである。
しかし、この状況は変わりつつある。クーポンやギフトカード、ロイヤルティ・ポイントのデジタル化――そしてより重要だが、モバイル化――が進んでいるからだ。モバイル化によって、こうした購買力をすべて1カ所に集約することができ、常に消費者が利用しやすい範囲内で、共通的・統合的に使えるようになる。
これは、小売業とブランドにとって何を意味するのだろうか。自社がこれまでやってきたことに、少しだけデジタルの要素を追加するだけでいい――こう考えるのは誤りである。クーポン、ギフトカード、ロイヤルティ・ポイントを3つの異なるツールとしてだけでなく、「ブランド通貨」という形態として捉える必要があるのだ。経済学者は通貨を、「価値の保存」であり「交換媒介物」であると定義する。クーポンやポイントはすべて価値の保存であり、デジタル化やモバイル化によって、はるかに効果的な交換媒介物となる。
この集約という側面が、ブランド通貨の第1の波である。これによって消費者は、支払いの際にクーポンやポイントを以前よりも使いやすくなっている。クレジットカードと連動した割引オファーを提供すれば、消費者は購入前にカードやロイヤルティ・アカウントにクーポンを読み込んでおくことができる。そして店頭購入時にクレジットカードがスキャンされると、適切な割引が自動的に適用される。消費者は個々のクーポンを覚えておいたり、提示したりする必要がないので、このやり方を好む。
もう1つのアプローチは、「ポイント・ショッピング」である。たとえば、消費者はアマゾンのサイトで、クレジットカードのロイヤルティ・ポイントを購入品の支払いに使うことができる。買い物客は、ポイントの残高を見て、ギフトカードやクレジットカードを使う時と同じくらい簡単に、ポイントを適用することができる。