第1の波はこのように互換性を高めるが、第2の波ははるかに大きな利便性をもたらす。アップルの〈パスブック〉のようなモバイルウォレットは、クーポン、ギフトカード、ポイントカードを1カ所にまとめ、本物の財布につきものの制約を解消してくれる。ただし、これは素晴らしいイノベーションだが、依然として従来の財布の意識を引きずっている。消費者は手作業で、組み合わせて使えるものとそうでないものを判別し、有効期限に基づいて優先順位を決め、自分で計算して、店頭で毎回それらを提示する必要がある。

 したがって、来たる第3の波は、モバイル・ポートフォリオ・マネジャーになるだろう。これは、現在のモバイルウォレットからさらに進化したもので、先述した互換性と利便性を兼ね備えている。クーポン、カード、ポイントが互換性を持ち、デジタルとモバイルの技術がフルに活用され、システムに知性が組み込まれる時、まったく新しい可能性が開かれる。つまり、購買力が自動的に算出・比較され、金額に換算され、使用する優先順位が決められ、支払いに使えるスキャン可能なバーコードなどが生成されるのだ。消費者はやがて、ブランド通貨をミント(Mint.com)のような方法で管理するようになるだろう(ミントとは銀行、クレジット、投資などの各口座をオンラインで管理できる無料の資産管理サービス)。

 最近では、「ブランドのパブリッシャー 化」がよく話題にのぼる。しかし、次々と押し寄せるブランド通貨の波は小売業に、独自の金融商品を生み出す銀行家のように考える必要性を示唆している。マーケット・リーダーとなるのは、消費者がブランド通貨のポートフォリオを最も管理・利用しやすく、最もよい交換レートを提供し、最も流動性を生み出し、最も効率的な市場を創造する企業だ。賢いブランド通貨戦略を遂行する小売業が、顧客内シェアを増やし、消費者とより深く、より永続的な関係を持つだろう。

 スターバックスは、おそらくブランド通貨の分野で最も先進的な小売業である。大半の小売業は、ギフトカード・プログラムを補足的なものとして扱っている。しかしスターバックスは、それを大きな競争優位に変えてしまった。同社CEOのハワード・シュルツは実際に、モバイル決済とソーシャル・ネットワーキングの組合せを、自社の「成長の青写真」の中心に据えている。

 2011年、スターバックスはiPhoneとアンドロイドのアプリを公開した。顧客はアプリを通して、スターバックスカードの残高をまとめたり簡単にチャージしたり、新しいデジタル・ギフトカードを購入したりできる。スターバックスの顧客の大半は、ギフトカードを他人へのプレゼントとしてではなく、自分の購入品の支払いや商品の引き換え、そして(キャンペーンへの自動エントリーなどによる)報酬の獲得を行う手軽な手段として使う。顧客は実質的に、ギフトカードをモバイル決済の手段やポイントカードとし、またアプリをブランド通貨用のモバイルウォレットにしているのだ。現在では700万人以上の人々が、スターバックスのモバイル・アプリを使って毎週450万ドルを支払っており、同社の米国での総売上高の少なくとも10%を占めている。2012年以降に贈られたスターバックスeギフト(デジタル版ギフトカード)の総数は、1000万以上に達している。

 スターバックスの戦略の強みは、単独のプログラムやプロモーションにあるのではない。ブランド通貨のシステム全体を統合し、顧客にシームレスな体験を提供する方法にある。同社は、デジタルやモバイル、ソーシャル空間を広く横断してお得なサービスや割引、決済を提供するにあたり、さまざまな技術やプラットフォームの力を統合的に活用している。アップル、アメリカン・エキスプレス、キャッシュスター、フェイスブック、スクエア、クーポン提供企業などだ。しかし最も重要なのは、自前のブランド通貨システムを持つことによって、スターバックスが顧客体験、顧客との関係性、顧客データに対するコントロールを維持していることである。