しかしアップルは現在、かつてのマイクロソフトやインテルによく似た、低コストのモジュラー方式を採る競合たちに脅かされている。サムスンやHTC、クールパッドをはじめ、グーグルのアンドロイドOSを採用しているメーカーのデバイスは、いまや世界のスマートフォン市場の75%を占める。アンドロイド用製品で使えるアプリやゲームの数は、2012年後半にはAppストアに追いつき、いま確実に追い越そうとしている。アップル製品(およびアップル・ストアの実店舗)のデザインと使い心地には、卓越したものがある。にもかかわらず、アンドロイドのネットワーク効果はやがてほとんどの顧客に対して、アップルの巧みに統合されたアプローチよりも高い価値を提供するようになるだろう(すでに、そうなっているのかもしれない)。
ふたたびポーターに戻ろう。「差別化を図り、これを維持・継続した場合のみ、ライバルに勝る業績が実現する。そのためには、顧客にこれまで以上の価値を提供する、これまでどおりの価値をより低コストで提供する、あるいはその両方によって提供する必要がある」
以上に挙げてきた戦略論の英知をふまえると、こう思わざるをえない――今後アップルがいくつかの破壊的イノベーションを生み出し、困難な選択を巧みに行い、ブルー・オーシャンに漕ぎ出さない限り、モジュラー方式の競合やその強力なネットワーク効果との長い戦いを強いられ、いずれは敗れることになるだろう。たとえ、スイッチング・コストによって当座はしのげるにしても。
あるいは、このように戦略的思考を用いることは必然的に、複数の相容れない比喩しか生まないのかもしれない。ビジネスの世界はあまりに複雑で、どれか1つの戦略モデルにぴたりと当てはまることはない。多くの戦略論の中では、ポーターは最も柔軟で耐久性があるかもしれない。しかし、それは彼の理論が分析のツールであって、診断や予測のためのツールではないためでもある。私は少し時間を費やして、アップルの状況をポーターの「5つの競争要因」のフレームワークに当てはめてみた。そうすることで、同社の選択肢のいくつかがより明確になったものの、この先どうなるのかはわからないままだ。
しかし戦略論は、アップルの苦境を理解するうえで多くのことを教えてくれる。「アップルはいまもクールな存在なのか?」、「ティム・クックは本当に有能なのか?」といったおしゃべりよりも有益だ。私は、純粋理論家による戦略論に異を唱えたアマル・ビデの論文“Hustle as Strategy”(邦訳初出「永続的な競争優位が望めぬ金融サービス業の競争戦略」『DIAMONDハーバード・ビジネス』1987年3月号)のファンである。最も優れた企業の多くは「細部のオペレーションや物事をきちんと進めることに専念している。奮闘(ハッスル)こそが、彼らのスタイルであり戦略なのだ」と彼は述べる。
奮闘を怠ればアップルは確実に苦境に陥る。しかし同社にとっての課題は、もはや奮闘するだけでは王座の地位を守れなくなっていることだろう。となれば、成功し続けるための確実な道筋は、iPodやiPhone、iPadの前例に匹敵するような、新たな市場を創出できるかどうかにかかっている。そして戦略論の教授も同様に、新たな理論を生み出してくれないだろうか。
なお、最後に申し上げておきたいが、私は戦略論の専門家を気取るつもりはない。アップルのことを考えていた時に書棚のHBRのアーカイブに目がとまり、そこから答えを求めようとしたのだ。また、HBRやHBR Pressを宣伝するためにこの記事を書いたわけでもない。HBRの常連である何人かの著作に頼ったのは、(1)それらが役に立つものだから、(2)最も優れた戦略思想家たちの著作をHBRが多く出版している(少なくとも、私たちはそう思っている)からである。
HBR.ORG原文:Apple Versus the Strategy Professors January 29, 2013

ジャスティン・フォックス(Justin Fox)
ハーバード・ビジネス・レビュー・グループのエディトリアル・ディレクター