本誌2013年11月号(10月10日発売)の特集は、「競争優位は持続するか」。本特集に寄せた論考の中でトッド・ゼンガーは、企業にとって最大の課題は「いかにして競争優位を得るか、または維持するかではない」と述べる。では、戦略における至上の命題とは何か――。ウォルト・ディズニーが図面に残した「企業セオリー」こそ、その答えであるという。


 ジェフリー・カッツェンバーグは最近行われたインタビューで、ウォルト・ディズニー・スタジオのトップに就任した日について語った。その日、同様にウォルト・ディズニー・カンパニーのCEOに就任したばかりのマイケル・アイズナーから、シンプルだが明確な指示を受けたという。「ディズニーのアニメーションを復活させてほしい」

 カッツェンバーグは映画業界ではベテランだったが、アニメーションを製作した経験はなく、その意欲もあまり持っていなかった。しかし、ディズニーに長年勤める人たちから、ウォルト・ディズニーが膨大なメモや音声で、アニメーション製作に関する経験を記録し残していると聞いた。それは社内のアーカイブに収められていた。

 それらの記録を見ているうちにカッツェンバーグは、ウォルトが事実上「ディズニー・アニメ映画をつくるためのレシピ」を残していたのだと気づいた。カッツェンバーグはこのレシピを活用し、その過程で独自の材料も追加して、華々しい成功を収めた。

 しかし、ウォルト・ディズニーはもうひとつ、明らかにもっと価値あるレシピを自分の会社に残していた。それは戦略のレシピで、私が「持続的な成長のための企業セオリー」と呼んでいるものだ。この企業セオリーは、以下に示す図面にその大部分が描かれている(1957年に作成され、やはりディズニーのアーカイブに収められている)。ここでは中央に映画事業というコア資産が据えられている。そこから関連するエンタテインメント資産に価値が注入され、また反対にそれらの資産に支えられる様子が、非常に細かく図示されている。

 もちろんこのシナジー・マップは、年月が経ち資産が増えていくにつれ進化していった(実際、アーカイブには進化したバージョンも存在する)。今日こうした図を描くとしたら、ボックスや矢印の数はずっと多くなるだろう(さらに、ディズニー傘下のスポーツ専門チャンネルのESPNを中心に、関連資産がその周りを取り囲む、別のマップも描けるだろう)。それでも、基本的なセオリーや、根底にあるインサイトはほぼ変わらないはずだ。ウォルトが遠い昔に組み上げた戦略ビジョンにより、その後の戦略上の可能性が明らかになり、それらが価値創造を伴う目覚ましい成長を支えてきたのだ。