このような効果的な企業セオリーは経営幹部にとって、戦略領域を長期にわたって正しく進むための道しるべとなる。つまり、山のような資産と企業活動、経営資源の組み合わせを選別し、取得し、組織化する際に、概念的なツールとして、時にフィルターとして機能するのである。

 私がHBRに執筆した論文"What Is the Theory of Your Firm?"(邦訳「戦略は価値観に従う」本誌2013年11月号)で述べたように、優れた企業セオリーは3つの戦略的「サイト」(洞察)を提供する。1つ目は、業界の発展を見通す「フォアサイト」(将来展望)。たとえば、関連する技術の変化や消費者の嗜好の移り変わりを予測できることだ。2つ目は、自社の特徴的かつ価値のある資産や経営資源を認識する「インサイト」(本質を見抜く力)。3つ目は、「クロスサイト」(既存資産との組み合わせ)――すなわち、隣接領域にある資産のなかで、自社のみに価値があるもの、あるいは他者には見出せない価値を有するものを認識できることだ。

 このような洞察は、競争の激しい市場で買収を行う時にとりわけ重要となる。単に既存資産とのシナジーを認識するだけでは不十分である。自社が狙っている資産は、他の多くの企業にとってもシナジーをもたらすものかもしれないのだ。したがって重要なのは、自社だけに生じるシナジー――他社には生じないシナジー――を認識することだ。あるいは、他社にシナジーをもたらすものであっても、彼らがそのことに気づいていない、という資産を認識することである。こうした洞察力を持っている企業だけが、資産売買の市場に参加でき、買収後に予想通りに価値を創出できるのだ。

 洞察力を与えてくれる企業セオリーは、ディズニーのシナジー・マップほど見栄えのするものでなくてもよい。多くの場合、言葉を使ったほうがうまく表現できるだろう。学術界では、強力な理論はエレガントで、同時にケチなものでもある。広い領域をごく限られた記号や言葉だけで表し、世界の仕組みについて説得力のある推論を展開するのである。効果的な企業セオリーとは、企業が戦略行動をとった時に、関連する戦略領域がどう動くかを簡潔に提示するものである。また、その企業に価値をもたらす継続的な戦略行動を示すものでなければならない。

 あなたの会社には、フォアサイト、インサイト、クロスサイトをもたらし成長に導くような企業セオリーがあるだろうか。それは、自社の属する業界や関連業界の将来像をはっきり示してくれるだろうか。また、自社の真の特徴や独自性をはっきりと示してくれるだろうか。自社のみに価値をもたらす資産や機会を明らかにするものだろうか。もしそうでなければ、価値創造を伴う成長に向けて、独自の企業セオリーを作成すべき時かもしれない。

HBR.ORG原文:The Disney Recipe May 28, 2013

 

トッド・ゼンガー(Todd Zenger)
ワシントン大学オーリン・ビジネス・スクールのロバート・アンド・バーバラ・フリック記念講座教授。