顧客中心主義の企業文化をつくろうとするならば、顧客からのフィードバックを賞与・報酬に反映させるのが一番だ――理想的には、そうである。しかしその前に、それが間違った方法で行われると、阿鼻叫喚の事態が起きかねない。ベイン・アンド・カンパニーの好評連載、第3回。
あなたが顧客中心主義の企業文化をつくることに真剣ならば、当然顧客からのフィードバックを賞与・報酬に反映させるはずだ。そうではないか?
しかしその認識は正しいとは言えない。
誰もが賞与・報酬は人の注意を引きうることを知っている。正しく実行されれば、それは企業価値向上につながる。創造性を喚起し、重要な目標を達成するための行動を加速させることができる。
だが、間違った方法で行われた場合、意図せざる結果は悲惨なものとなる――いくつかの企業が顧客フィードバックを報酬に反映させようとした時に起こったことが、正にそうであった。具体的には、以下の3つのリスクが存在する。
評点への過度な注力:顧客フィードバックを定量化する方法がない限り、それを報酬に反映させることはできない。それはネット・プロモーター・スコア (本連載第1回の図版参照)や、何らかの顧客満足度指標によって可能である。例えば、エンタープライズ・レンタカーは、エンタープライズ・サービス・クオリティ指標(Enterprise Service Quality index:通称 ESQi) を、レンタルサービスに「完全に満足」していることを示す評価枠(同社では「トップボックス」と呼んでいる)をチェックした顧客の割合だと定義している。それが彼らの目標の基準となる。
だが、賞与・報酬体系においては、体系に従った相応の報酬のみが支払われる。ひとたび報酬が特定の指標の改善に基づくようになると、従業員は顧客が何を欲しているかを理解するよりも、その指標にのみに注力するようになる。商品や顧客体験を改善することよりも、指標そのものを説明し批判することに時間と労力を使うようになる。理由をあれこれひねり出して、データ収集方法を批判するようになる。「ああ、ベンダーとの問題が我々の顧客に悪影響を与え評点を低下させてしまった」「株式市場が下落していた」「天気が悪かった」等々、創造力を駆使して低パフォーマンスの言い訳をするようになる。あるいは、評点に影響を及ぼすすべての変数をコントロールすることは不可能であり、説明責任を果たせない、と言い出すかもしれない。