駆け引き:本来であれば顧客を喜ばせるために活用されるべき創造性が、しばしば別の危険な方向に向かってしまう。指標中心の企業では、顧客フィードバックの評点に過度な重点が置かれ、その仕組みの中で駆け引きが始まってしまう。現場で活躍する「気が利いた」従業員は、ネガティブなフィードバックを提供しそうな顧客の声については、意図的に誤った連絡先を入力しておいたり、調査対象から除外したりすることによって「隠蔽して」しまうかもしれない。
例えば、エンタープライズ・レンタカーのいくつかの店舗では、不満を持っている顧客の電話番号を一桁か二桁変えてしまい、調査員たちがフォローアップの電話をできないようにしているという噂があった(同社ではそのような行為を「スピード違反」と呼び、正当な解雇理由と見なしている)。
また、他の企業では、満足度が高い顧客にのみ調査票の回答を依頼することがあった。ある日買い物をしていると、従業員がレシートの下にある調査票招待状に油性ペンで丸を付け、「調査票に回答してくれると非常に助かります。私の名前を書いてくれれば、私は表彰されます。」と言っているのを見かけた――ただし、ほんの一部の顧客に対してのみである。どの顧客に対して言っているかは、想像がつくだろう。
より創造性の低い駆け引きの事例――多くの企業で一般的に行われていること――は、あからさまな懇願である。ほとんどのアメリカ人消費者(欧州の消費者もそうであると聞いている)は、高い点をつけるよう頼まれたことがあるという。顧客満足度調査の最高点に大きな丸を付けたサインを掲示している自動車ディーラーもある。
私自身も最近、非常に残念な経験をしたことがある。自動車を購入した際の体験そのものは素晴らしかったのだが、最後にそのセールスマンは、後々私のもとに「本社」から届くであろう調査票を見せ、2つの質問項目を見せながらこう言ったのだ。
「マーキー様、これらの質問項目においてお客様一人でも私に10以下の評点をつければ、私はトップセールスマンとしてのステータスを失ってしまい、最高の車を取り扱うこともできなくなってしまいます。ボーナス争いからも脱落し、来年以降の私の仕事の状況は苦しくなってしまうのです」