創業者同様、リージャスの幹部も競争優位は一時的なものでしかないことを認識している。この知恵は苦い経験を通して得たものだった。アメリカでITバブルが崩壊した時に、同社の施設を借りていた起業家たちも破綻し、アメリカでの同社の事業が連邦破産法第11章(チャプターイレブン)の申請へと追い込まれたのだ。
この経験を踏まえ、ディクソンはリージャスのビジネスモデルを刷新した。建物の所有者との新しい提携の仕組みや、会員制クラブ「ビジネスワールド」といった新しいサービスの提供、海外市場への拡張などを通してである。
現在、リージャスは95カ国550都市に展開し、FTSE250の1社としてロンドン証券取引所にも上場している。災害時の支援からバーチャルオフィスに至る数多くのサービスを提供し、さまざまな地域と事業分野で参入と撤退を繰り返している。
リージャス・グループは、一時的優位に対して次のように取り組んでいる。新たな事業機会を探す時に、そこで獲得できる優位はいずれ終わることを(参入前の段階から)前提としている。COO(最高執行責任者)のルディ・ロボによれば、同社はあるチャンスを追求し始める際に、同時に出口戦略も検討するのだという。優位が短命に終わることを常識としているのだ。
同社は物件と契約する前に、もしもこれがうまくいかなかったら?と自問する。そしてどのプロジェクトに対しても、進める前にできる限りリスクを取り除くよう「全身全霊で」(彼の言葉だ)取り組む。これは、私が長年ビジネススクールで教えてきた、「仮説志向の計画」という原則とも一致する。すなわち、プロジェクトのリスクを減らすことができれば、たとえ失敗する可能性が残っていても、はるかに大胆に進めることができるのだ。
リージャスはまた、一時的優位を別の、もっと賢明な方法でも活用している。「顧客にとっての一時的優位」を高めることを、自社の成功と結びつけているのだ。企業はリージャスのサービスを使うことで、コストを変動費化できる。その結果、陳腐化の可能性がある資産を背負い込まずにすむ。さらにリージャスは、当初の想定よりもそのチャンスに魅力があると判断すれば、すぐにクライアントを支える手はずを整える。小企業のクライアントが大企業に見えるように手を貸す。活発な大企業にはバーチャルのバックオフィスを提供し、新たな領域へと拡大するのを助ける。
リージャスのような企業は、戦略に大きな影響を与える「一時的な競争優位」にどう対処すべきか、私たちに多くを教えてくれる。
HBR.ORG原文:Seizing Opportunities When Advantages Don't Last May 29, 2013

リタ・ギュンター・マグレイス(Rita McGrath)
コロンビア・ビジネス・スクール 教授。
不確実で不安定な環境における戦略を研究。著書に、本稿に関連するThe End of Competitive Advantage: How to Keep Your Strategy Moving As Fast As Your Business, Harvard Business Review Press, 2013. などがある。