3.パラドックス(Paradox)
「効率と成長の両方にフォーカスする」「ケイパビリティを活用しながらも、場合によっては距離を置く」――変革を推進するリーダーは、一見矛盾する要件に直面する。パラドックスは誰しも受け入れにくいものであるから、時に相反する2つの変革の両方に関わる人の数は、最小限にしなければならない。経営陣は戦略上の意思決定に携わってきたがゆえに特に、難しい。今後も彼らは、どちらかの変革に関して意思決定を行っていくだろうが、両方ではない。相反する2つの変革の意思決定を行うのはCEOの仕事であり、信頼できる少数の幹部や、選ばれた取締役会メンバーの仕事である。

4.粘り強さ(Persistence)
 変革は1日で成せるものではない。アップルやIBMなどの歴史的なサクセスストーリーにも、暗い時代があった。ギルバートらの論文で取り上げられている、ゼロックスとバーンズ・アンド・ノーブルの事例も同様に、困難を伴ってきた(現在でも困難はある)。リーダーはこうした苦境にあって素早く立ち上がり、組織に発破をかけ続ける以上のことをしなければならない。進歩の証しである小さな成功を促進し、祝福するのだ。

 変革をリードすることは、恐ろしく困難なように思われる。この旅を始めようとするリーダーは、適切なタイミングであることを確かめる必要がある。すべての組織がいつかは変革を強いられる。しかし、企業にとって、侵襲度(身体を傷つける度合い)の高い心臓手術にも匹敵する変革が、時期尚早ではないかを注意する必要がある。取締役会や個人的なネットワークを活用してアドバイザーのグループをつくり、外部からの貴重な視点を提供してもらおう。決して1人では行わないことだ。

 もし変革を視野に入れているのなら、その特徴である相反性に自分を慣らしておこう。アーティストや起業家など、不確実性に満ちた人生を送っている人を自分のネットワークに取り込もう。仕事の外に、相反性が特徴となっているようなことを探そう。古くからのことわざにもあるように、準備をしている人に幸運がやってくるのである。


HBR.ORG原文:Transforming a Company Is Daunting, But You Can Prepare for It March 15, 2013

 

スコット・アンソニー(Scott Anthony)
イノサイト マネージング・ディレクター
ダートマス大学の経営学博士・ハーバード・ビジネススクールの経営学修士。主な著書に『明日は誰のものか』(クリステンセンらとの共著)、『イノベーションの解 実践編』(共著)などがある。

クラーク・ギルバート(Clark Gilbert)
デザレット・ニュース・パブリッシングおよびデザレット・デジタル・メディアのプレジデント兼CEO。