昨日まで本DHBR.netにて、一橋大学大学院 名和高司教授には日東電工やユニクロの事例を挙げながら、日本企業がいかに持続的な競争優位を築いていくかを示していただいた。その好評連載の元となった書籍『学習優位の経営』の一部を、本日より5回にわたって紹介する。

 

 日本企業は「失われた10年」から抜け出したのもつかの間、世界規模での景気後退に飲み込まれてしまいました。日本や欧米の成熟市場がマイナス成長に突入する中、日本企業が得意としてきた高付加価値路線だけでは新たな需要は喚起できません。一方、今後急成長が期待される新興市場のボリューム・ゾーンを攻めようとしても、日本企業のコスト構造では太刀打ちできないのが現状です。

 まさに「出口なし」の状態です。

 このような緊急事態の中での応急処置的な対応は、徹底した無駄遣いの削減と投資の切り詰めということになります。各社とも当面をなんとか切り抜けようと、そのような守り固めのための施策に注力しているようです。我々のコンサルティングの現場でも、オペレーション改善やリストラ案件が目白押しです。

 しかし、コスト削減一本槍では、「縮み」指向から抜け出せません。世界規模で需要が縮退し、従来型の事業モデルでは限界が見えている今こそ、供給コストを抜本的に下げつつも、一方で新しい需要を喚起していかなければならないのです。次世代の成長に向けて、そろそろ真剣に舵を切りなおす時ではないでしょうか。

 需要を喚起するためには、今こそ顧客が本質的に求めている利用体験を実現する(スマート化)ために、既存の技術や資産を最適に組み合わせる(リーン化)ことがカギとなります。本書では、そのようなスマートとリーンを両立させるモデルを「スマート・リーン経営」と呼びます。

 たとえば、「お茶の間の復権」を目指した任天堂のWiiの成功は、スマート・リーン経営の好例です。また、デフレ時代の申し子ともいえるユニクロも同様です。そもそも世界最強といわれた頃の日本企業は、「いいもの(スマート)を安く(リーン)」が共通の勝ちパターンではなかったでしょうか。

 ここまで議論すると、クライアント企業からは、集中砲火を浴びることもあります。いわく「そんないいとこどりの戦略なんて実現するはずがない。スマートもリーンも、どちらも実現できないで困っているのに」と。