確かにそのように言われてもしょうがないでしょう。そもそも、オペレーション改善やリストラに比べると、スマートとリーンの両立は、やらなければいけないことの複雑性が極めて高く、実際のインパクトに結びつく可能性は低いのです。3カ月かけて立派な戦略をつくろうと、1年かけて実際にパイロット・プロジェクトを手がけようと、3年かけて体質改善プロジェクトを全社展開しようと、外部のコンサルタントが知恵を絞るだけでは限界があります。経営者と社員自身がじっくり考え抜き、実際の現場で試行錯誤しながら自社ならではの答えを自らつかみ取り、そのような思考・行動プロセスを体質化していくしかないからです。

 したがって、スマート・リーン経営を目指すには、不退転の決意をもって企業も(コンサルティング会社も)ベストチームを組んで取り組んでいくことになります。それでも、今までの勝ちパターンにこだわりすぎたり、逆に、環境変化に適応しようとしすぎて自社の強みを見失ったりするケースが多く、納得のいく答えにたどり着くまでには試行錯誤の連続となります。ただ、このようなコンサルティングの現場での経験と国内外の事例からの学びを通じて、成功のための必要条件が1つだけはっきりみえてきました。

 それは、自社の本質的な強み(DNA)を覚醒させ、磨き続けるということです。あまりにも自己中心的にみえるかもしれませんが、すべての答えは、そこに凝縮されていると言っても過言ではないでしょう。なぜなら、ポーカーゲームのようにすべての札を取り替えることができない以上、自分の今の机上の駒と持ち駒が現実のゲームの出発点だからです。

 マーケティングの教科書は、「顧客から出発せよ」と説きます。しかし、筆者の経験では、いくら客観的な顧客調査をしても、その企業にとって関係のないことしか出てきません。その企業にとって意味のある問いかけは、「自社の顧客は本質的に自社に何を期待しているのか」と「自社が取り込めていない顧客は、どうすれば自社の顧客になってくれるのか」の2つだけです。つまり「自社から出発せよ」ということです。

 また、戦略論の教科書は、「他社と差別化できる立ち位置(ポジショニング)を築け」と説きます。しかしそれは、市場のシェアを奪い合う熾烈なゲームを展開しているときの話です。これからは、新たな需要を立ち上げ、供給の仕組みを構築しなくてはなりません。つまり、市場自体を大きくするゲームにおいては、市場のパイを取り合うのではなく、自社の強みを起点に、いかに他社を巻き込んで市場を大きく立ち上げられるかが勝負となります。

 すべての企業は、自社独自のDNAを本業の中で長く培い、体質化しています。しかし、そのDNAを拡大再生産するだけでは、本業そのものがいずれ成熟化してしまいます。その成長の限界を突破して本業を進化させるためには、DNAにも本質的な変容が迫られます。一方で、成功体験を持った強いDNAほど免疫力が高く、変化を拒絶しようとするのも確かで、「イノベーションのジレンマ」と呼ばれる現象です。

 逆説的ですが、この「イノベーションのジレンマ」にこそ、成長の最大のヒントが隠れています。成熟化してしまったはずの本業において、事業モデルを抜本的に組み替えることができれば、次の成長曲線を描くことが可能になることを示唆しているからです。新たな成長を求めて新規事業開発に乗り出すより、本業でスマート・リーン型の変革を自ら仕掛けることができれば、確実に大きな成長が期待できます。言い換えれば、本業こそ次世代成長の宝庫、なのです。