この「企業内ナレッジ市場」は、イントラ版のソーシャルメディア・プラットフォームを具現化した〈ジャイブ(Jive)〉や〈ヤマー(Yammer)〉、〈シェアポイント(SharePoint)〉などの製品に先駆けるものだった。コラボレーションを促す今日のデジタル・ツールは素晴らしいし、非常に強力だ。しかし、その活用のされ方は十分ではないことに私は驚き、残念にも思っている。社内ソーシャルメディアに関して現在見られるアプローチは、「セイの法則」――供給されたものは、必ず需要される――に従っているようにも思われる。ツールがあるのだから、社員はツールを使うだろう、と考えられているのだ。しかし、上述の社内コンテストで観察されたのは、需要が評価・報酬の対象となるなら、社員は新たなツールさえもつくってしまうという現実だ。

 優れたツールを与えるだけでは、人々が大いに協力し合ったり、コラボレーションが上手くなったりすることはないのだ。例えるなら、素晴らしいフードプロセッサーやオーブンを与えると、より頻繁に、あるいはより上手く料理できるようになるという程度だ。我々のコンテストが成功したのはなぜか。それは、同僚を価値ある資源として扱い、またイノベーションやアイデアを求める顧客として扱おうという呼びかけと取り組みだったからだ。

 我々は社員に対し、もっと社内起業家の精神を持ち、社内の提案に心を開くよう求めた。誰にも強要はしなかった。しかし、コンテストを実施し最高幹部クラスが関与することで、組織を活気あるナレッジ市場にしようという意図が明らかになった。新たな予算でも人材補強でもなく、社内のコンテストが、新たな価値創造への投資となったのだ。同社の(比較的)粗削りな共有用デジタル・プラットフォームも、このナレッジ市場によって意義が見出され、価値あるものになった。

 今日のツールは非常に改善されている。しかし、経営トップの取り組みは改善されていないのではないか。あなたの会社では情報共有を促進するために、どんなコンテストや評価や報酬を実施しているだろうか。他人のアイデアを活用したことに対して、相応の評価を受けた「今年のどろぼう」は誰だろうか。段階的、または飛躍的なベスト・プラクティスやプロセス改善の方法を、最も「盗まれた」チームはどこだろうか。

 最も売上げの多かった社員、特許獲得数が多かった社員を祝うためにパーティを開いている企業ならば、私は実際にたくさん知っている。しかし、優れたアイデアを企業全体から探して再活用したチームを祝う企業は、本当にわずかしかない。業務の進め方を変革する社内的なイノベーションを広めたチームに対しても、同様だ。たしかに、ツールは重要だ。しかし、文化はそれ以上に重要なのである。

 あなたの会社の文化は、大きな価値をもたらしうる共有を評価し、それに報いるものだろうか?


HBR.ORG原文:A Simpler Way to Get Employees to Share December 13, 2012

 

マイケル・シュレーグ(Michael Schrage)
マサチューセッツ工科大学スローン・スクール・オブ・マネジメントのリサーチフェロー。著書にSerious Play: How the World's Best Companies Simulate to Innovate およびWho Do You Want Your Customers to Become?などがある。