ソーシャルメディアが「中身化」を進めた

 編集者の菅付雅信氏は、現代のライフスタイルの変化を論じた著書『中身化する社会』(星海社新書)のなかで、ネットの進化とソーシャルメディアの爆発的な普及によって、商品や人物の「中身」が可視化されてしまう状況(=中身化)を紹介しています。

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菅付雅信氏:編集者。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』『リバティーンズ』の編集長を歴任。著書『はじめての編集』『中身化する社会』のほか、朝日出版社アイデアインク・シリーズも手がける。(illustration by Florence Deygas)

 今やネット上におけるあらゆる発言・行動は記録され、検索可能な状態に置かれています。私たちが日々ソーシャルメディアを通じてライフログを公開し続ける限り、それは避ける事ができない現実です。

 そのような社会で起こることは何か? 菅付氏は次のように語ります。

「今や好むと好まざるとに関わらず、人々の人格はネットの世界で判断されるようになりました。大抵のことが『ググれる』ようになった結果、アポイントメントがあるときはまずFacebookやGoogleなどでどんな人物なのか調べることも当たり前になっている。すると、どんなに着飾っても、第一印象がネットの検索結果に左右されてしまう。『人は見た目が9割』というベストセラーがありましたが、たとえ見た目をどんなに取り繕っても、検索結果が思わしくなければ信用されない世の中になりつつあるのです」

 これを菅付氏は「ソーシャルメディアが“見栄”を殺す」と表現します。上辺だけの華やかさではなく、より本質的な“中身”で評価される社会の到来。菅付氏が提唱する「中身化」とは、評論家の岡田斗司夫氏が「評価経済社会」と呼んだものに近い状態です。

 当然のことながら、人々の消費行動にも変化が見られます。特にソーシャルメディアの普及にいち早く対応したアメリカの大都市で、新たなムーブメントが台頭しました。

「僕は定期的にニューヨークを訪れているのですが、ここ数年で街の様子はすっかり変わりました。人々が20世紀型の大量消費ではなく、より本質的で、パーソナルなものを求めるようになっているんです。地産地消型のオーガニックレストランであったり、ハンドクラフトのジーンズショップであったり。こうしたムーブメントは『コンフォート』と呼ぶ傾向があり、ニューヨーク以外の都市にも、急速な広がりを見せています。もちろん、このムーブメントは単に安易に『快適』であることを追求しているわけではありません。衣食住すべてにおいて『本質を追求しているからこそ、心地が良い』と感じるものをコンフォートと呼んでいるのです」(菅付氏)

 そんなコンフォートというトレンドには、代表的な雑誌があります。『KINFOLK』というオレゴン州ポートランド生まれのライフスタイル誌です。