ラグジュアリーブランドに、いま世界的な変化が起こっている。これまでは、エクスクルーシブ(選ばれた人向け)であることに価値を見出していたが、自分たちのブランドのコア部分をオープンにし、消費者とのコミュニケーションのあり方を変えつつあるのだ。ラグジュアリーはいったいなぜ変化しようとしているのか。国内外の事例や有識者の分析から、ラグジュアリーブランドのこれからについて考える。


 かつて“高嶺の花”というイメージがあったラグジュアリーブランドに世界的な変化が起こっています。その顕著な特徴は、ブランドの核ともいえる部分を多くの人にシェアしてもらおうとするオープン化の動きです。

 例えば、これまで非公開を貫いてきた生産過程の公開。メルセデスベンツのAMGは「熟練職人が自分の手でエンジンを組み上げる」ことをブランドのシンボルにしており、エンジンプレートに担当した職人の名前が刻まれています。自動車をまるで伝統工芸品のように扱うことで、AMGをラグジュアリーブランドたらしめてきたのです。

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YouTubeの「AMG Virtual Tour」では、エンジンが実際にひとりの職人によって組み立てられる様子を公開している。

 長らくその真偽が議論の対象になり、モーターファンの間で半ば伝説のように語られてきた「職人の手づくりエンジン」ですが、昨年6月頃から同社はYouTubeに「AMG Virtual Tour」という動画をアップし、トップシークレットだった生産過程をネット上で公開しています。エンジンがひとりの職人の手によってくみ上げられ、最後にその証拠としてエンジンプレートがはめ込まれる一連の映像は、強烈なインパクトを与えました。「本当に手づくりだった!」とモーターファンを興奮させたわけです。

 こうした動きは、ファッションブランドにも見られます。昨年、ヒューゴ・ボスのアートディレクターだったブルーノ・ピータースが新たに立ち上げたネット通販専門ブランド「Honest by」は、複雑な商品供給プロセスをすべて消費者に公開したことで話題になりました。

 Honest byでは素材の調達先から原価まで知ることができ、例えば原価69.14ユーロ(約9200円)のチュニックの販売価格が225.87ユーロ(約3万円)であり、差額はブランドが生み出した付加価値であると明記されています。

 オープン化の違ったかたちとしては、バーバリーも大きな変化を遂げました。ラグジュアリーブランドのなかでデジタルにいち早く対応し、オンラインメディアでのファッションショー生中継(終了後にはその服を購入できる)、ネット通販の充実(注文から配送までの期間の短縮化)、そして同社の神聖な象徴ともいえるトレンチコートのカスタムメイドまで、さまざまなチャレンジを行ってきました。

 結果、バーバリーは中国など新興市場での需要拡大に成功し、市場価値が7年間で3倍以上に増加しました(33億500万ドルから111億8000万ドル)。そうそう、その手腕を買われて、アンジェラ・アーレンツCEOがAppleに移籍したことも話題になったばかりですね。

 こうしたオープン化の流れは、「エクスクルーシブ(選ばれた人向け)」というラグジュアリーブランド本来の定義からいえば、受け入れ難いものであったはずです。それにも関わらず、どうしてオープン化は止まらないのか。